雨降りの土曜日、妻の発案で映画「八犬伝」(*1)を観てきました。山田風太郎の原作を映画化したものだそうで、単純に『南総里見八犬伝』のストーリーを追って映像化したものではなく、作者・滝沢馬琴と絵師・葛飾北斎の交流や息子と渡邉華山の関わりなどを織り交ぜ、馬琴の半生を描きながら、同時に八犬伝の物語をファンタジックに描いていきます。この工夫はたいへん面白いです。「われこそは玉梓(たまずさ)が怨霊〜!」という名セリフが懐かしい(*2)八犬伝のストーリーは、今の時代から見るといささか陳腐な面もありますが、作者の苦悩を対比させながら純粋な勧善懲悪の世界がドラマティックに進行しますから、その対照が鮮やかです。特に物語の終盤、26年間もかかって書き継いできた八犬伝の物語が、老齢による馬琴の失明により結末まで書き続けることができなくなってしまう。それが、早世した息子・宗伯の嫁・お路(みち)に口述筆記をさせることで大団円を迎えることができたというあたりは、史実に沿うものだけにぐっと来ます。無学なお路は「いろは」はよめるけれど、漢字はふりがななしには読めず、また書くことはできません。癇性の馬琴が親子ほど違う嫁に辛抱強く字を教えながら完結にたどり着くエピソードは、実にいい場面で、黒木華さんがいいところを全部持っていったみたい。山田風太郎の原作を読んでみたいものです。それと、予告編で吉村昭の『雪の花』(*3)が映画化され、来年の1月に公開されることを知りました。こちらも注目です。
(*1): 映画「八犬伝」公式サイト
(*2): 「辻村寿三郎展」を観る〜「電網郊外散歩道」2019年4月
(*3): 吉村昭『雪の花』を読む〜「電網郊外散歩道」2021年8月
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