電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マルチユーザーとシングルユーザー

2022年09月13日 06時00分52秒 | コンピュータ
MS-DOS から Windows3.1 に変わったとき、一番嬉しかったのは拡大自由な TrueType フォントの表現力でした。当時、普及しつつあったインクジェットプリンタのおかげもあり、全角・倍角・四倍角といった文字の制約から離れ、マウスドラッグで拡大・縮小も自由自在。MS-Works 等の便利なツールを使いながら、Windows の作法に慣れていきました。平成の初期の時代です。

ところが、便利な Windows3.1 は、意外に短命に終わりました。原因は、Windows95 と WindowsNT の普及です。1995年の晩秋、行列を作るほど期待された Windows95 でしたが、使い慣れるほどその安定性に懸念を持ちました。何か新しいソフトウェアや周辺機器を導入すると、デバイスドライバ等の問題なのかブルースクリーンが頻繁に発生します。こうなるとリセットするしか手段がなく、表計算で作業途中だったりすると、それまでの苦労が水の泡になってしまうのでした。そんなとき、WindowsNT は堅牢なOSとしてしだいに評価を高めていきます。当時、Windows95 は確かに手軽で便利だけれど、LAN で業務に使うのならば安定性の高い WindowsNT を使うほうが良い、と言われたものでした。見た目の印象では、WindowsNT 3.5 は画面デザイン的に Windows3.1 的なイメージが残りましたが、WindowsNT 4.0 になると Windows95 のイメージを取り入れ、かなりスマートになりました。しかし、堅牢な安定性は DEC の技術者だったデヴィッド・カトラーが率いたチームが Windows95 のチームとは独自に開発したものであり、滅多なことではブルースクリーンは発生せず、「NTをクラッシュさせるほど凶悪な」などという揶揄が通用するものでした。



マイクロソフト社は、Windows95/98 系と WindowsNT 系の統合を目論みます。当初は、Windows2000 でこれを実現しようと考えたようですが間に合わず、WindowsXP で一応の実現をみます。WindowsXP Home が Windows95/98 系の流れをくみ、Professional が NT系の流れを組むような印象を持ちますが、商品化の仕方が違うだけで(※)、技術的な中身はあまり変わらなかったようです。
※Professional は Active Directory で管理しやすいが、WindowsNT サーバでドメインで管理するのであれば Home でも Win98 系でも同じだったはずです。

では、Windows95/98 と WindowsNT とはどこが違っていたのか。基本的に、Windows95/98 系はシングルユーザー志向で、WindowsNT 系はマルチユーザー対応を謳っていたようです。マルチユーザーOSというと、厳密には同時に複数のユーザーが利用できるという意味であり、Windows は本来シングルユーザーOSなわけですが、そういう技術的な意味合いではなく、実際の使われ方の観点で見るとそうなる、ということです。つまり、WindowsNT が普及していく時代には、職場の各セクションごとに何台かの端末が設置してあり、必要に応じて利用者が業務用LANにログインして使う、というイメージです。誰がどんな操作をしたかを把握する意味で、利用者にはIDとパスワードが与えられ、権限に応じてアクセスできるフォルダに制約がある、といったイメージです。こういう使い方の場合、管理者(Administrator)が設定した権限を越えて操作することはできません。

Windows95/98 系でもユーザーを作ることはできましたが、フォルダごとにアクセスを制限することは出来ず、親の使っているパソコンのブラウザの閲覧履歴やダウンロードしたフォルダの中身が子供にぜんぶ見られるといった悲喜劇もあったとか。結局、業務用の WindowsNT 系のパソコンを導入することはあまりなく、親も子も一人一台のパソコンを購入し、各自で勝手に管理して使う、という形に落ち着いたようで、XP で両系の統合が実現しても、それは変わらなかったようです。同様に、一般的な事業所でも、現在のように一人一台のコンピュータを使うならば、むしろシングルユーザーで使ってもらうほうが扱いやすいということなのでは。

つまり、マルチユーザーかシングルユーザーか、といった違いは、一時の過渡的形態に過ぎず、結局大勢は個人がコンピュータを占有使用する「パーソナルコンピュータ」という本質が優先された、ということなのでしょう。大型コンピュータをタイムシェアリングで分割利用した時代(*1)から、ミニコンやワークステーションのような中型・小型コンピュータを分散利用する時代を経て、結局は個人が専有して使用するという形に落ち着いた。このあたりは「集中から分散へ」というキーワードが当たっていると感じます。そして、ごく専門的な、高度のセキュリティを要求される分野では、利用の仕方を制限し管理する必要から、業務用の利用形態が残っている、ということなのでしょう。

一時、Linux はマルチユーザーOSだから Windows よりも優れていて、といった議論がありましたが、そんなことで普及が決まるのではないだろうと私は感じています。確かに、複数の利用者が同時にアクセスするサーバ用途、特に Google のサーバ群のような巨大な分散ファイルシステムなどでは Linux 機のメリットは大きいでしょうが、一般ユーザーが端末用途で使うには、Windows と Linux とにあまり違いはなさそうです。違いがあるとしたら、利用者数の少なさからくるウィルス等の攻撃の少なさ、システムの安定感などのメリットと、年賀状ソフトがないなどのちょっとした不備、でしょうか。

(*1): サーバ依存型サービスとユーザーの自衛法〜「電網郊外散歩道」2009年3月


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4 コメント

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戦うプログラマー (しろまめ)
2022-09-13 18:28:31
デヴィッド・カトラーの奮戦は「戦うプログラマー」に詳しく描かれていましたね。分厚い上下巻のハードカバーでしたが、面白く読みました。カトラーは腕はいいけど、ひどく気難しい職人気質で、ああいう人は今の時代では生きにくい、働きにくいだろうなあと思います。まあ、ぼくなんかに心配されたら、そのことで激怒しそうな人ですが。

これまで何十年も、マルチユーザーとシングルユーザーが、よく分かっていませんでした。
が、今回の「大型コンピュータをタイムシェアリングで分割利用した時代」で腑に落ちましたです。
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しろまめ さん、 (narkejp)
2022-09-13 19:48:21
コメントありがとうございます。デヴィッド・カトラーの奮闘を描く『戦うプログラマー』は、私も面白く読んだ記憶があります。Windows95に期待するビル・ゲイツが、WindowsNT開発を横目に見て95チームににネットワーク機能の充実を強くプッシュする様子は、技術者としては実はカトラーの方が上なんだなと感じ興味深かったです。実際には、インターネット接続の重要性がクローズアップされてきて、OSR2で大きく方向転換するわけですが。InternetExplorer3.1の雑誌「アスキー」誌の付録にしたあたりは、商売人の面目躍如たるものがありました。
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茶々です(笑) (みっち)
2022-09-15 20:39:27
こんにちは、お久しぶり、みっちです。

最近マルチユーザーなんて議論はあまり見かけなくなったので、興味を持ちました。みっちの知っていることを以下に。

>WindowsXP Home が Windows95/98 系の流れをくみ、Professional が NT系の流れを組むような印象を持ちます…

WindowsのHomeとProはNTカーネル部分はほぼ同一で、主な違いは、Active Directoryのメンバーになれるかどうかくらいだったと思います。企業でネットワークを組む場合、Active Directoryを使って、Windowsマシンだけのネットワークにすることが普通です。こうすると、ドメイン・アドミニストレーターの権限が強力で管理が楽になります。ドメインのメンバーになれないと困るので、企業用はPro一択となります。
あと、マルチユーザーですが、1台のパソコンに外から複数ユーザーがRemote Desktopで同時にアクセスするとなると、HomeもProも駄目で、Windows Serverでなければなりません。ProはRemote Desktopのホストになれますけど、常時接続できるのは1ユーザーだけで、これは不便です。実際問題としては、Proの中身はWindows Serverとほとんど同じで、ただMicrosoftが販売戦略上の理由で、この機能を使えなくしているだけと思われます。ケチなようですが、そうしておかないとProをサーバーに使う輩が続出するでしょう。(笑)Mac OSですと、Unixですから、VNCでマルチユーザー・アクセスなんて当たり前に可能なんですけどね。

Linuxは、みっちが必要とするアプリがないので、ちょっと常用は難しいです。たとえばAdobeの写真関連はWindowsとMacしかありません。あと音楽編集関連が豊富なのはWindowsですね、ちょっと変わったハードウエアだと、デバイス・ドライバーも大体においてWindows用が主流、そのため現状はMacとWindows併用になっています。
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みっち さん、 (narkejp)
2022-09-16 07:38:27
コメント&情報をありがとうございます。昔話ついでに、Adobe のソフトウェアは高嶺の花でしたね〜。PDF が普及してきた頃、Acrobat3.0 を自費で購入して Distiller で PDF を作成していましたが、さすがにPhotoshop や Illustrator までとなると、若い時代の安月給ではとても手が出ませんでした。DOS の時代の dBASE III Plus とともに、三大「高嶺の花」でしたね〜(^o^;)>poripori
昔の職場で、刊行物の購読者管理にデータベースソフトの購入が認められず、ユーザー管理IDをつくり、ワープロ専用機のFDからテキストデータ処理でjgawk や sortf 等を駆使して自前でDOS上のバッチ式管理システムを作ったことがありますが、当時は部下の知識や技術はタダだと思っている上司がほとんどでしたからね〜。いや、年寄りの愚痴になりました(^o^)/
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