Number PLUS Sports Graphic「拳の記憶」
NHKスペシャル「奪還~ジョージ・フォアマン45歳の挑戦~」である。
1995年に放送された沢木耕太郎構成・脚本、小林薫ナレーションの
スポーツドキュメンタリーの傑作である。
残念ながら現在このドキュメンタリーを見ることは出来ない。
半年ほど前Youtubeに上がっていたのだが、今は削除されている。
昨年、ボクシングを特集したナンバーの別冊「拳の記憶」発売され、
巻末に放送台本をベースに加筆載録されている。
コレだけのためにこの本を買ったようなものである。
本放送では見ていない。
再々放送ぐらいのものを大阪へ帰省中に見た。
おそらく、正しい順序で見たのだろう。
先日紹介した「モハメド・アリ かけがえのない日々」を見た直後だった。
「アリは私の王座を奪っただけでなく、自我までも粉々にしたのだ」
アリに敗れたフォアマンはリングを離れ伝道師となり、
自らの体験を交えて人々の悲しみや苦しみを支えるようになる。
粉々になった自我を取り戻すため信仰に頼るように。
10年のブランクの後、教会の施設建造の資金のためリングに復帰する。
すでに38歳だったらしいが、興行師にとっては誰もが知っているビッグネームである。
「アリに敗れた元チャンピオン」
だが1992年、チャンスがめぐってくる。ヘビー級のタイトルマッチ。
相手はイベンダー・ホリフィールド。フルラウンドの末判定負けを喫する。
おそらくはこのときに粉々になった最後の欠片をみつけたのではないか。
二年後の1994年、再びチャンスがやってくる。
相手はホリフィールドを破った若きチャンピオン、マイケル・モーラー。
キンシャサから20年である。
「これは初めてのことだが、自分のためだけに戦う」
フォアマンは20年前、アリが自らに対して取った作戦のように、
若きチャンピオンを挑発し、相手のスタミナの消耗を待つ。
そして第10ラウンド、「その時」がおとずれる。
チャンピオン モーラーの足が少し止まる。
その刹那、フォアマンの右ストレートがモーラーの顎を捉える。
モーラーがリングに倒れた瞬間、フォアマンは自らのために
「奇跡」を起こしたのだ。
キンシャサから20年。長い長い自我の再生である。
そう、「かけがえのない日々」と「奪還」は合わせ鏡なのだ。
この順序でよかったのだ。
もちろん、フォアマンが45歳で再び王座に就いたことはリアルタイムで知っていたが、
これほどの物語があることは知らなかった。
このドキュメンタリーは多くの「心の折れかかった」人に勇気を与えていると言う。
冒頭のナレーションにはこうある。
「もし四十代を中年と呼ぶなら、四十五歳の彼はまぎれもない中年の男だった。
しかし、その彼は世界ヘビー級チャンピオン、すなわち世界最強の男に
挑戦しようとしている四十五歳でもあった。」
今日、四十五歳になった。
僕はフォアマンのように失ったものはない。
ただ、何かを言い訳にして自ら放棄してきただけである。
変われるか、変えられるのか、年齢は関係ない。
「遅すぎることはない」のである。
フォアマンのように、自らのために頑張りたい。