ヒラリー・クリントンと女性票:若年女性の不支持の理由
ヒラリー・クリントンが若年女性から支持されない理由
2016年の民主党での大統領予備選挙の指名争いで、バーニー・サンダースのほうがヒラリー・クリントンよりも若者の支持率が圧倒的に高い。そして、ヒラリーの場合に問題なのは、女性の支持率だ。ヒラリーは女性から支持率が高いと言われるのは、かなり間違っている。この女性への支持率で、困難を抱えるヒラリーという視点で、その理由を日本で報道したのを見たことがないので、その理由をここに書いておく。Millennial Womenと言われる1980年以降に生まれた若年層の女性では、ヒラリーよりもサンダースのほうが圧倒的な支持率を得ている。
若年層の支持率で圧倒しているのはサンダースなのだから、当然だ。そして、ヒラリーへの女性の支持率は、高齢になるほど高くなる。これは、非常に問題である。ヒラリーは、今まで何度も女性のためと言って、女性初の大統領になることが、女性へのエンパワーメントになると言ってきた。しかし、この女性のためと言った時に、重要なことがすっかり抜けている。女性のためと言うのなら、これから社会の力になっていく若年層の女性たちにこそ支持されないといけない。
もう寿命で死んでいく高齢な女性になるほどに支持率が高く、これからの未来を担う若い女性たちからは反感を買っているのがヒラリーだ。このことは、本国の米国ではかなり問題になっていて報道もされている。サンダースから、エスタブリッシュメントと批判されたヒラリーは、こんなことも言っている。
Hillary Clinton On Bernie Sanders Labeling Her 'The Establishment' | Democratic Debate | MSNBC
https://www.youtube.com/watch?v=xNrgFVy4yDU
"I've got to just jump in here because, honestly, Senator Sanders is the only person who would characterize me a woman running to be the first woman president as exemplifying the establishment,"
ヒラリーは、「大統領として立候補した最初の女性である私をエスタブリッシュメントと言ったサンダース」と批判しているのだ。つまり、女性であるという理由で、エスタブリッシュメントであるという批判から逸らしているのである。こういう被抑圧者としての女性を強調して、批判から逃げるのも旧態依然とした女性の権利を言うフェミニストであるとして、若年層の女性から反発されている。被抑圧者としてなら、障害者と健常者の間のほうが深刻だが、ヒラリーはそんなことは考えもしない。
ヒラリーは、間違いなくエスタブリッシュメントである。もちろん、講演料や寄付金の流れを見てもそうで、これは繰り返し言われている。そして、忘れてはいけないのは、ヒラリーは白人女性のレディーファーストであったから、大統領候補になれたのだ。ヒラリーが女性の人権と言う時によく忘れているのは、自分が白人であることから特権を得てきたことを考えていないことだ。この点は、黒人女性からも批判されている。男女格差については言うが、黒人女性と白人女性の間の格差をどう思っているのかと。
やはり、ここでも、ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの』からの引用が非常に当てはまる。
多くの黒人女性や有色の女性たちが目にしたのは、白人の特権階級女性が、改良主義的なフェミニストの改革や、人種に加えてジェンダーでもとられたアファーマティブ・アクションから、他の人種の女性よりも大きな経済的利益を得たことだった。それを目にしたとき、黒人や有色の女性たちは再び、フェミニズムとは本当は白人の力を強めようという運動ではないのかという不信感を抱いたのだった。(81頁)
ヒラリーは、フェミニズムの視点を言いながら、フェミニズムが抱えてきた白人女性優先になってきたことの反省が見られない。フェミニズムは、特権階級の女性たちにとって都合よく使われてきたし、ヒラリーにとってもそうだ。ヒラリーにとって最も手痛いのは、女性間の格差を出して、白人特権階級の女性が、そうではない大多数の女性を差別してきたと糾弾されることだ。そして、この反感が若年女性にあるのだ。アメリカで莫大な給与を得ている女性は、極極一部の恵まれた白人女性ばかりである。
アメリカで、フェミニストたちは男社会を批判しながら、その男社会が作り上げた企業のトップが莫大な資産を得るという構造を改善するどころか、特権階級の白人の女たちはその特権に自分も習ったのである。サンダースが言っていることに、民間保険でなく、国による国民皆保険を実施することがある。この国民皆保険がないことで、給与も安く資産もない若年層は相当額の医療費がかかる。ヒラリーは、サンダースの言う国民皆保険を現実的ではないなどと言っている。
サンダースが言うように、主要な資本主義国で、国民皆保険ではないのはアメリカだけである。この程度のことくらいで怯むのに、ヒラリーは自分が実行力のあるprogressiveであると口やかましく言っている。アメリカで初の女性国務長官だったマデレーン・オルブライトも、ヒラリーを応援して、若年層の女性がヒラリーを圧倒的に支持しない現状もあって、女性がお互いに助け合えないのは地獄行きなど言って、ヒラリーもこれを肯定していた。これも、甚だ勘違いしたことだ。
女性が助け合えないようにしたのは、ヒラリーやオルブライトのような、安直なフェミニズム思想のせいである。そもそも、国民皆保険ですら社会主義や共産主義と言う国に仕立て上げてしまったことの反省はないのか。アメリカ民主党支持で、自分がprogressiveであると自認している者でも、国民皆保険は社会主義の手先だとか言って批判してきたのである。こうなると、アメリカでは、生まれながらに恵まれた女性しか、社会で大成できない。
アメリカが実力主義など真っ赤な嘘で、女性の中では、生まれながらに恵まれた白人女性ばかりが、自分が能力があると思い込んで、黒人女性を跳ね除けたり、恵まれない白人女性を押しのけてきたのである。今のアメリカの状況が深刻なのは、今までは、黒人が差別されていて不遇を訴えていたのが、白人層にまで広がってきていることである。だから、白人女性の恵まれない、あるいは平凡な白人女性の若年層が、エスタブリッシュメント白人女性のヒラリーよりも、アメリカ全体を変えてくれるサンダースを支持するのだ。
もちろん、ヒラリーが、あまりに意見をコロコロ変えて、progressiveとしての一貫性などないのに、progressiveと言い張っている胡散臭さもある。ヒラリーはイラク戦争に賛成したことも含めて批判されているが、若年層の女性たちは、ヒラリーが特権階級の白人女性に過ぎないのに、女性を武器にして自らへの批判を逸らし、女性を武器にして、女性であるからprogressiveであると言い張っているヒラリーに飽き飽きしているのだ。
特に、バーニー・サンダースへの支持は、18から29歳の白人女性では7割近くにまで上る。まさに、特権白人女性から虐げてられてきた結果、特権白人女性のヒラリーに、白人女性が反旗を翻している構図がある。そもそも、大統領選にブッシュとクリントンの家系からばかり出るのは、一体どういうことなのかという不満が相当にある。今までの歴史を見れば、特権階級に属する女性たちが、恵まれない女性たちを熾烈に差別することさえ肯定してきたことの真の歴史を見つめるべきだろう。
反省の女性学とはに、当サイトの反省の女性学の趣旨を書いています。
2016年2月掲載