第五回「須賀敦子翻訳賞」授賞式に行ってきました(2023.4.26)@イタリア文化会館
「須賀敦子翻訳賞」は1988年~2007年の「ピーコ・デッラ・ミランドラ賞」の後継として2014年に新設され イタリア語の著作の優れた日本語への翻訳を評価 広く紹介するために隔年で開催されています
授賞作品:
斎藤ゆかり訳『フォンタマーラ』(イニャツィオ・シローネ、光文社、2021年10月)
長野徹訳『動物奇譚集』(ディーノ・ブッツァーティ、東宣出版、2022年3月)
第5回は 2020年7月~2022年9月に刊行された書籍75点のうち 選考対象外を除いた37点の中から 選考委員の推薦のあった17点が候補となりました
ファイナリストの4点に絞って議論の末 上記2作品が受賞となったそうです
今回の共通点は 30年余にわたる原作者とその作品の研究の成果が結実したものであることです
お二人とも 斎藤氏はシローネの 長野氏はブッツァーティの著書に若い頃に出会い 長く研究・翻訳を続けてこられたのですね
その2名の作家の作品の日本語訳を 同じ翻訳者が 数十年前に初訳され日本に紹介されたということも 不思議な偶然のめぐりあわせなのでした
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長野氏は教鞭を取る傍ら 児童文学の翻訳を続けてこられました
高校生の時に偶然美術史の本の中でブッツァーティの挿絵を見て画家としての彼と最初に出会い やがて研究するようになったそうです
ブッツァーティはここ10年程再評価されたことで 長野氏が翻訳され7冊出ています 安定感があり 作家への愛が感じられる名人芸のような訳文です
斎藤氏は トリノに留学後 特派員や翻訳等の仕事を続けられる中で 偶然読んだ本で初めてイニャツィオ・シローネを知り 片っ端から著作を読みながら これで自分の人生が変わるかもしれないと感じたそうです
この「フォンタマ―ラ(Fontamara)」をすぐにでも訳したいと思ったものの難しく 先に彼の他の2冊を訳されたとのこと また シローネの生誕100年の翌年の2001年に シローネの故郷ラクィラのぺシーナで イニャツィオ・シローネ国際賞翻訳部門賞を受賞されました
「雪の下の種の資料館」という団体を2006年に立ち上げ その名前は彼女が大切にしてきたシローネの作品からとったとのこと イタリア特派員としても 海外を問わずどこへでも出かけ 積極行動主義を実践されました
このお話は そろそろ落ち着こうかなと思っていたほぼ同い年の私にとって衝撃でした
早速授賞式のあとで 「ことばを紡ぐ人」斎藤氏の受賞作「フォンタマ―ラ」をロビーで買いました 地名や人名の意味を文の中に組み込むことで面白さを伝えようとしたとのこと 今から楽しみです📖
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この授賞式に先立ち 長野氏訳の「動物奇譚集」を読みました:
動物奇譚集
愛犬家のブッツァーティらしく 犬を主人公にした短編が10篇ありました 中でも愛犬の死に際を描いたものや 人間と犬が入れ替わってしまったり 実に含蓄のあるショート・ストーリーを夢中で読み進みました
ネズミに大きな会社が乗っ取られた話や 実験動物の話や 死んでも骨が人間のために役立ち続ける牛の話など 堪能しました
ブッツァーティの作品は「名作短編集」で「何かが起こった(Qualcosa era successo)」の話を読んで以来でした
そして次に「古森の秘密」を読みました 長野先生の含蓄の深い訳文を堪能しました ファンタジー溢れた不思議な森の人々と 風の妖精のお話に魅せられました ラストがよかったです📖
斎藤氏の作品『フォンタマ―ラ』も これからじっくり読みたいと思います📖
なつかしい方々にも会場でお会いできて 感無量です😊
授賞式で購入した「フォンタマ―ラ」とプログラム
第5回須賀敦子翻訳賞授賞式のお知らせは こちら