ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

師家所蔵 16mmフィルムのデジタル化大作戦!(その3)

2010-05-29 01:12:03 | 能楽
フィルムはまず日本語の字幕から始まります。当時の日本映画でも物語の背景の説明のために映画の冒頭によくこういう字幕がある、あれです。

  その昔、素朴な人々が美しい富士山の下で平和な生活をおくり三保の松原をこよなく愛していた
  この人々の愛情から羽衣の伝説が生まれた
  きれいな天女が一人の漁夫のために踊った
  この羽衣の伝説は今も全世界の美を愛する人々にささげられている

この字幕はあとで追加されたもののようです。なぜなら、この字幕に続いて始まる本編ではすべてフランス語の表示・ナレーションが付されているからです。

三保の松原から見た富士山の遠景、出漁の準備にいそしむ漁夫…そんなイメージカットのあとに出たタイトルは「Hommage à Hélène」…「エレーヌへのオマージュ」。続いて「Pour Hèléne et tous ceux qui aiment et out aimé MIHO NO MATSUBARA et HAGOROMO」という文字が現れます。ええと…「エレーヌと、その愛したもの…三保の松原と羽衣のために」というような意味でしょか。すんませんフランス語は大学の第二外国語で習っただけなもんで…(×_×;)

こうして始まったのは、エレーヌ夫人へ捧げられた碑の除幕式の映像です。まず「1er Novembre 1952」という日付が示されたのち、映し出された会場(碑の除幕式ですから当然野外)の入口に設えられた門には日本語で「祝 エレーヌ夫人 羽衣の碑 除幕式」とあるほかにフランス語で「Bienvenue Ceremonie à Hélène Giuglaris」(=ようこそエレーヌ・ジュグラリスのセレモニーへ)と書いてあります。ここにかぶせられているフランス語のナレーションまではさすがに ぬえにはわかりませんでした~

1952年といえば戦後からあまり隔たっていない昭和27年です。参列者も和服の人が多いですし、男性のまん丸メガネも時代を感じさせます。その中でひときわ目立つハンサムな外国人こそ、エレーヌの夫君のマルセル氏でありましょう。



若くしてこの世を去った妻エレーヌの遺髪が納められた碑の除幕を見つめる彼は、時折ハンカチで眼を拭くしぐさも映し出され…。当時の記録は検索ではなかなか発見できませんでしたが、フランス大使や市長(これは当時の清水市長でしょう)なども出席されたようで、そうして映像を見ても、能の公演もあったので一般の人も広く見物できたのでしょう、本当に多くの…数百人ほどもありそうなお客さまが集まっているようです。

チラッと映った式次第にはこう書いてありました。
一、 開式の辞
二、 日本 フランス国歌斉唱
三、 除幕
四、 献花
五、 式辞
六、 経過報告
七、 感謝状表彰…(判読不能)
八、 祝辞
九、 謝辞
十、 能上演
十一、 閉式の辞

こうして除幕式の最後の場面で ぬえの師匠(先代)によって能『羽衣』が上演されました。