ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

JIN’S PROJECT活動報告会(その2)

2013-01-22 01:25:22 | 能楽の心と癒しプロジェクト
劇のあとの質疑応答では ぬえも発言して意見を述べさせて頂きましたが、仁さんの体験や劇として呈示された住民さんの「本音」は、震災から半年以内くらいだと思いますが、現地での「混乱期」のことだと思います。今はそれからはずいぶん状況が変わって。。住民さんの「今」の本音は仮設住宅の中に閉じこめられているように ぬえには感じられます。これまた時々しか現地に赴かない ぬえごときが語る事でもないのですが。。

でも、せっかく東京で、しかも70名が集まられた報告会ですから、今の我々が現地に対して何ができるのか。このことを討論する必要があります。残念ながら、今回はそれには時間が足りませんでした。

ぬえは思うのですが、あの震災で日本中の人が心にトゲが刺さってしまいました。募金はしました。でも、それが現地で困っている方々に届いていない、というのは震災からいくばくもなく報道されて。でも、当時の東京にいた私たちの大多数には募金よりほかに出来ることがありませんでした。震災3ヶ月目に ぬえは、何もわからぬままに、何ができるのか確信も持てないままに現地に入りましたが、そのとき ぬえは、「何でもっと早くここに来なかったんだろう。。」と思いました。それほど衝撃的な光景だったわけで、それが ぬえの今の活動の原点でもあるわけですが、それでもご遺体の捜索などからお手伝いされた仁さんの経験の比ではありませんね。

でもまた、震災3ヶ月目にして現地に入ることができる時間の余裕を持てたこと、その前に、ここが ぬえの活動の原点かもしれませんが、震災以前に学校公演で石巻の小学校と気仙沼の中学校にお邪魔していて、礼儀正しく元気な子どもたちの様子を見ていたことから、現地に行って彼らの、あるいはその町の人々の役に立ちたい、と強く思えた動機があったこと、この二つの条件が重なって東北に行くことを実行できた ぬえは幸せだったのかもしれません。少なくとも ぬえは活動を通して自分の心のトゲだけは抜くことができたのだと思います。

この日の報告会でも実際に現地に行ってボランティア活動をしている人がたくさんおられました。でも、そんな時間の余裕もなくて、心のトゲが抜けなかった人は? 心に蓋をしてしまわざるを得ない状況が、震災の「風化」に加速度をつけているのかもしれません。思うに、あの当時、日本のみんなが、募金であれ物資支援であれ、確実に困っている現地の助けになっていることを実感できる道筋が整っていれば、もっと違う今があるように思えて仕方がありません。

そうして、その道筋。。この日も仁さんが「ルール」。。だったかな、そういう言葉を使って表現しておられましたが、それはまだ確立もされていないのではないかと思います。数えられない程の数のボランティア団体が当時も今も活動しているわけですが、こういった組織。。と言いますか、支援したい、と願う日本人すべての心の統合や連携をまとめる機構があれば、もっと大きなことができるのかもしれません。草の根の活動、ぬえたちみたいに地道に仮設住宅をまわる活動も必要かもしれないし、難しい問題もあるでしょうが。。

ぬえがもう一つ現地で思ったことは、神戸と新潟から現地に届けられた、あまりに強力な支援体勢です。いまだに石巻に常駐して住民さんの支援を行い、昨年の1月17日には阪神淡路大震災の追悼集会に石巻の人々を伴って、自分たちの町の復興の道のりを参考にしてもらった団体。避難所に設置された巨大な仮設の入浴施設に掲げられた「中越沖震災~ご支援ありがとうございました」の大きな横断幕。痛みを受け、支援を頂いた町は、こんなに大きな準備をしていたんだ。。

ですから、この日報告会に集まった70名を超えるお客さまは、心ある方々だなあ、と思います。現地に行けても行けなくても、震災から2年になろうという時期に「これから何をしたらよいのだろうか?」という答えを探しにお出でになったのでしょう。こうした小さな善意を、実感がある形に成長させてあげるのは国。。なのかわかりませんが、個人や個々のボランティア団体よりも、もっと大きな枠組み。。ルールですかね、そういったものではないかと思います。大きな組織が統轄すると個人が動きにくい、という弊害はあるのかもしれないので、これまた難しい問題なのかもしれませんが、今回のような大きな災害でも、すぐにみんなが「ルール」に則って支援することができる体制って、必要ではないかなあ、と思います。

ともあれ、行動力の固まりのようなJIN’S PROJECTのみなさんの活躍に ぬえは心から驚かされましたし、共鳴も致しました。なにかと勉強させて頂かなくてはならない ぬえですが、どうぞ今後ともよろしくお願いしますです~~