~Agiato で Agitato に~

再開後約20年になるピアノを通して、地域やほかの世代とつながっていきたいと考えています。

ニコライ・トカレフリサイタル

2009年07月12日 22時16分04秒 | ピアノ
昨日、ニコライ・トカレフのリサイタルに行ってまいりました。
彼の演奏を聴いたのは何年ぶりでしょうか・・・少なくとも4年はたっているよね、と思い、今転妻よしこさんの日記で確認させていただいたら、果たして2005年7月、私がまだこのブログをつけ始める前、そして私がオフラインでよしこさんに初めてお会いした日なのでした。


このときの感想は、よしこさんと似通ったもので、左二階席にすわって聴いていた私は、まだ少年の面影の残る22歳くらいの愛想のよい若者(トカレフは1983年生まれ)を見ながら、「とにかく指が回って弾けて弾けて仕方がない、って感じだなあ」と思ったものでした。
今回それから4年たっているわけなのですが、正直そこまで期待していなくて、編曲ものの多いプログラムを見つつ、「きっとまた洪水のような超絶技巧なのだろうなあ」と思っていたのでした。

これが、いい意味で裏切られました・・・

1曲目はグリーグ作曲(ピアノ編曲はセルゲイ・クルサノフ)の組曲「ペール・ギュント」第1番より、朝・オーセの死・アニトラの踊り。
これまでの彼の感じからいうとなぜ「山の魔王」が入ってないのかがかなり不思議だったのです、これまで、ワルキューレとか禿山の一夜とか弾いていたので。
さて登場したトカレフは、私の記憶の中の彼とかなり違っていて、うっすらひげを生やした精悍な顔つきに具合が悪いのか機嫌が悪いのかといった表情で、青年におけるこの数年の疾風怒濤を感じさせました。
「朝」は編曲ものとはいえ、音の少ない曲。それを長いフレーズで歌ったあと、「オーセの死」。・・・これがちょっと驚きでした。私の席は演奏者の表情が手に取るように見える位置だったのですが、息遣いも荒く、思いがあふれたのか以前の彼だとあり得ないような打鍵ミス(といってもかする程度ですが)もあり、肉体的に調子が悪いのだとしても、精神的には聴衆をつかんで離さないテンションの高い演奏で、これは凄い、と身を乗り出しました。
続く「アニトラの踊り」は、おそろしいほどのリズムのキレが発揮されて、「ウマイ!」という感じ。これだったら、「山の魔王」はいらないかもしれないです。


前半の他のプログラムはラヴェル。
「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「夜のガスパール」。
「亡き王女・・」は技術的にはそこまで難しい曲ではないのですが、弱音の多いこの曲を息長く聴かせるのはそう簡単なことではありません。最新のアルバムがフランスものばかりということもあってか、深い洞察を重ねたことが伺える、でもそういうところを通り越した自然に流れる演奏で好感を持ちました。
「ガスパール」は難曲中の難曲ですけれど、彼の技術をもってすれば演奏そのものは楽勝と思いましたが、果たして内容はどんなものに・・と興味津々。
ガスパール1曲目の<オンディーヌ>、夢と現のはざまに連れていかれ、ほとんど現実感喪失、2曲目の<絞首台>で夢のかなたから遠鳴りする鐘の連打を聴いているうちになぜか猛烈に咳をしたくなり、こんな弱音の曲で咳なんかした日にはほんとに死刑だ・・と必死でガマン。ほんとに首を絞められているかのような苦しさ(殴)。
<スカルボ>の音量がどっと大きくなるところで待ちかねたように一咳したところ、トカレフもここで大きく咳をしていました(笑)。いや、笑いごとではなく、彼も絞首刑がごとく息苦しさの中で2曲目を弾いていたのかもしれません。それがもし伝染したのだとしたら、おそるべき演奏です。
スカルボ・・・炸裂でした。小鬼暗躍、リズムの恐ろしさたるやえぐられるよう。超絶技巧&並外れたリズム感、それに凄まじい集中力で圧倒されました。弾き終えて現実に戻るまでかなり時間がかかったのも表情から見てとれました。

・・いやあ、凄い弾き手になったものです・・


後半のプログラム
P.パブスト:オペラ「スペードの女王」による挿絵--チャイコフスキー「スペードの女王」に主題によるピアノの大変奏曲
A.ローゼンブラット:チャイコフスキー「白鳥の湖」の主題によるピアノためのファンタジー

どちらも初めて聴く曲でしたが、編曲ものはトカレフのよく演奏するものなので、面白く聴きました。
「スペードの女王・・」のほうは、官能的かつ情熱的な表現で、若いイケメンであるトカレフの表情を食い入るように見てしまいました。
「白鳥の湖・・」はジャズのようなリズム炸裂で、時々は以前のトカレフの演奏を彷彿をさせる箇所もあり、曲そのものも楽しかった。

アンコールは
ラフマニノフ:前奏曲 作品32-12
リスト:ラ.カンパネラ
ドビュッシー:月の光

こういう演奏会でよく弾かれる曲でも、それぞれ何か「おっ」というところのある演奏で、すべて堪能したなあ・・・という感じです。


実は、今回のリサイタルは予定外で急に行くことになったのでしたが、思わぬ収穫というか、こういう若い演奏者は継続して聴いてみるもんだなあ・・としみじみ思ったことでした。
若いしイケメンだし、もともとの超絶技巧に加えて表現力の幅や深さも増して、これからますます楽しみです。
今回お客さんはそこまで多いというほどではありませんでしたが、「トカレフ、ちょっと変わったよ」ということで、次回もっと多くの方が足を運んでくださるといいな・・招聘元の回し者でもなんでもなく、私は思います。