Aくんが真っ赤になり今にも泣きそうな顔をしている。
「送迎が出るよ。Aくん早くしな」
そう私がいったばかりだ。作業所の時計は4時を回っていた。今日は久しぶ
りに早く作業が終わっていた。
「緑の手帳と財布の入ったバッグがないんです」
緑の手帳とは、知的障害者手帳だ。ちなみに身体障害者は赤の手帳です。
私はケース記録を書く手を止めて、Aくんのリュックの中を見た。失禁した
ときのための下着、ズボン、シャツにタオルが2、3枚、ジャンバーやお茶と
コーヒーのペットボトルが3本、缶コーヒー1本が入っていた。
「バッグはどこに置いたの?」
しばらく考えていたAくん。
「そうだ、朝、送迎の中に忘れてきたんだ」
(これだけいうのに彼の場合、3分ほどかかります。「そ・う・だーあさ…、
そう、げ、い~、のー、 な、な、な・なかに~、わす、れ、てーき…たんだ」
こういう感じです)
といって嬉しそうに出て行った。
私は送迎車の運転手のSさんに目で挨拶して送迎車を見送った。
1日の活動日誌を書いているとき電話が鳴った。所沢駅の西武バス営業所か
らだった。
「そちらに**Aさんという人は働いていますか?」
あ、また何かあったんだ、と私は思った。
「財布を作業所に忘れてバスに乗れないといっているんです」
電話を本人に替わってもらった。
結局、バッグは送迎車の中にはなかったらしい。Aくんは、バッグがないと
バスに乗れないし作業所に戻って探したいという。
「作業所にどうやって来るの?」
「Oさんに迎えに来て欲しいんです」
私はまいった。今日はなんとしても、これまで忙しくて書けなかったケース
記録をちゃんと書こうと決めていたのだ。そして、先週忙しくて行けなかった
整形外科にどうしても行こうと考えていた。腰が痛くて我慢できないのです。
自宅に電話をした。お母さんがいたら迎えに行ってもらおうと思った。しか
し、3回かけたが出てくれなかった。
とりあえず施設長に電話をした。このことを報告しておかなくてはいけない。
ところが1メートル先から呼び出し音がする。なんと施設長の携帯電話があっ
た。携帯電話は携帯していてもらわないと携帯電話じゃない。
私は車を走らせた。40分ほどして所沢駅に着くとバス停にAくんがいた。
ダウン症独特の丸く太った彼の姿を見て、私は胸が熱くなった。なんといって
も今現在、この地球上でおれを待っているのはこいつだけなんだ、と思った。
息子でも女房でもない。駅前の雑踏の中、心細い気持ちで私を待ち続けてくれ
るのは37歳になるAくんだけなんです。
私は車を停め、ハザードをつけバス停まで駆けていった。
バッグは無事、作業所で見つかった。
私はそれから彼の自宅まで送って行きました。
ケース記録も書けなかった。整形外科にも行けなかった(19時までしかや
ってない)。腰痛がつらい。
でも、こういう苦労をAくんのお母さんはずーとしてきているはずだ。そう
想像すると気が遠くなる思いがした。
「送迎が出るよ。Aくん早くしな」
そう私がいったばかりだ。作業所の時計は4時を回っていた。今日は久しぶ
りに早く作業が終わっていた。
「緑の手帳と財布の入ったバッグがないんです」
緑の手帳とは、知的障害者手帳だ。ちなみに身体障害者は赤の手帳です。
私はケース記録を書く手を止めて、Aくんのリュックの中を見た。失禁した
ときのための下着、ズボン、シャツにタオルが2、3枚、ジャンバーやお茶と
コーヒーのペットボトルが3本、缶コーヒー1本が入っていた。
「バッグはどこに置いたの?」
しばらく考えていたAくん。
「そうだ、朝、送迎の中に忘れてきたんだ」
(これだけいうのに彼の場合、3分ほどかかります。「そ・う・だーあさ…、
そう、げ、い~、のー、 な、な、な・なかに~、わす、れ、てーき…たんだ」
こういう感じです)
といって嬉しそうに出て行った。
私は送迎車の運転手のSさんに目で挨拶して送迎車を見送った。
1日の活動日誌を書いているとき電話が鳴った。所沢駅の西武バス営業所か
らだった。
「そちらに**Aさんという人は働いていますか?」
あ、また何かあったんだ、と私は思った。
「財布を作業所に忘れてバスに乗れないといっているんです」
電話を本人に替わってもらった。
結局、バッグは送迎車の中にはなかったらしい。Aくんは、バッグがないと
バスに乗れないし作業所に戻って探したいという。
「作業所にどうやって来るの?」
「Oさんに迎えに来て欲しいんです」
私はまいった。今日はなんとしても、これまで忙しくて書けなかったケース
記録をちゃんと書こうと決めていたのだ。そして、先週忙しくて行けなかった
整形外科にどうしても行こうと考えていた。腰が痛くて我慢できないのです。
自宅に電話をした。お母さんがいたら迎えに行ってもらおうと思った。しか
し、3回かけたが出てくれなかった。
とりあえず施設長に電話をした。このことを報告しておかなくてはいけない。
ところが1メートル先から呼び出し音がする。なんと施設長の携帯電話があっ
た。携帯電話は携帯していてもらわないと携帯電話じゃない。
私は車を走らせた。40分ほどして所沢駅に着くとバス停にAくんがいた。
ダウン症独特の丸く太った彼の姿を見て、私は胸が熱くなった。なんといって
も今現在、この地球上でおれを待っているのはこいつだけなんだ、と思った。
息子でも女房でもない。駅前の雑踏の中、心細い気持ちで私を待ち続けてくれ
るのは37歳になるAくんだけなんです。
私は車を停め、ハザードをつけバス停まで駆けていった。
バッグは無事、作業所で見つかった。
私はそれから彼の自宅まで送って行きました。
ケース記録も書けなかった。整形外科にも行けなかった(19時までしかや
ってない)。腰痛がつらい。
でも、こういう苦労をAくんのお母さんはずーとしてきているはずだ。そう
想像すると気が遠くなる思いがした。