やっと「無冠の父」(阿久悠著 岩波書店)のことを書きます。
久しぶりに、いい小説を読んだ。
こういう小説を読むとしみじみ読書することは幸せだと思う。
「『無冠の父』は、阿久悠の手になる長編小説のなかで唯一の未発表作品である。
一九九三(平成五)年の九月から一一月にかけて執筆され、完成稿が編集者に渡されたが、
改稿を求めた編集者に対して阿久悠は原稿を戻させ、以後、
二〇〇七年八月に没するまでこの作品についていっさい語ることはなかった。…」
と本の最後に「本書刊行の経緯」が書いてある。
阿久悠は、どういう気持ちでこの小説を出版しないまま死んで行ったのだろう。
この小説は、阿久悠の実父のことを書いている。
九州で生まれ、淡路島の駐在所の警官として生きた阿久悠の父は、実に堅く真面目な人間だった。
8月15日の終戦の日には、誰もが腹を切るかと思っていたような人だった。
阿久悠という作詞家は、このような家庭環境で生まれたんですね。
私は、阿久悠の歌が大好きです。
これまでの作詞家の中で一番の人だと私は思っている。
(なかにし礼も素晴らしい)
「第三章 俳句」に、父と子が俳句を作るシーンがあった。
阿久悠の他の俳句もきっと素晴らしいのではないかと思う。
天皇の声に重なる蝉の声
松虫の 腹切れと鳴く声にくし
この子らの 案内頼むぞ 夏蛍