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この本がバカ売れしたのは2003年。
もう4年も前の話である。
その当時に買って読み、本棚に残っていたのを何となく取り出して再読してみた。
当時読んだときも、おもしろかったのかおもしろくなかったのか、どうもピンとこなかった記憶が残っているんだけど、今回読んでみてもやっぱり同じで、どこか腹に落ちないところがある。
思うに、この本がいわゆる「聞き書き」であることがその原因であるんじゃないだろうか。
冒頭に書かれている通り、この本は、養老氏が独白したものを編集部が文章化したもの。
だから、雑談を聴いてるかのような感じで、話があっちにいったりこっちにいったり、まとまりがない。
もちろんいいこともたくさん書いてある。
人間は不変で情報は変わりゆくと世の中では考えられているが、それは逆で、情報こそが不変で人間は常に変わっているのだ、と論じるあたりはおもしろい。
が、他方、最初の方で、脳の働きを一次方程式に見立て、「係数」によって様々なことを表現するあたりは、あまりに感覚的で少々乱暴な印象。
社会学の話をしていたかと思うと、突如脳の話になる。
作者は医学者なので、脳に関わる自然科学的分析を社会学に有機的に敷衍することこそ、この本のキモになるはずなのだが、それらの繋がりがいまいち論理的でないので、読んでいて何か物足りなさ、気持ち悪さを感じるのだ。
こんな調子だから、作者が本当に言いたかったことがこの本を通して世の中に伝わったのかどうかもやや疑問に思う。
表層的には、この本の論調は、文明批判・金儲け批判に読めるし、「昔の日本人はこんなではなかったのに、今は・・・」みたいな言い回しがそこかしこに出てくるので、保守層には耳障りが良いだろう。
作者が本当に伝えたかったことは、浅薄な保守主義的主張ではないんじゃないか、と思うんだけど、議論が丁寧でないのでそのあたりがミスリードされ、ここ数年の保守回帰の風潮にのってベストセラー化したのではないか、という感じがするのである。