家族の昭和関川 夏央新潮社このアイテムの詳細を見る |
昭和ヒト桁生まれである向田邦子の「父の詫び状」を元にして戦前の「家族」の在り様を、幸田文の「おとうと」「流れる」に拠り一家の中心として女手で家族を支えた女性の生きざまを探り、そして昭和末年に鎌田敏夫脚本によるTVドラマ「金曜日の妻たちへ~恋におちて」「男女七人夏物語」を丹念に引用しながらすでに「家族」が失われ昭和という時代の終焉が予感されていた時代の「感覚」を呼び覚ます。
この他にも、吉野源三郎「君たちはどう生きるか」、そして最後に小津安二郎の映画「麦秋」「東京物語」「秋刀魚の味」などにも触れられていますが、メインになる引用元は上記の三作家の作品になります。
向田邦子の作品は読んだことはありません(実は今読み始めていますが)。
「父の詫び状」はドラマ化されてますがそちらも観た記憶はなし(ただし杉浦直樹の印象はある)。
ただ、この本でも紹介されている、向田邦子と十歳以上年上の妻子ある恋人との書簡をめぐる「向田邦子の恋文」についてはNHKスペシャルか何かでドキュメンタリーを視たことがあります。
幸田文の「流れる」については、成瀬巳喜男監督の映画化作品を観ています。
これは本当に素晴らしい映画で、今まで古今東西約千本の映画を観てますが、出来の素晴らしさという点では一番と言ってもよいくらいの作品。
映画に触発されて原作の小説も読みました。
「恋におちて」と「男女七人」についてはリアルタイムで知ってます。
いずれも中学生の頃、「恋におちて」は観た記憶はないですが一種社会現象になった印象は強く、「男女七人」は夕方の再放送だったかもしれないけど全部観たと思います。
というわけで、個人的にはけっこう馴染みがある作品が出てくるので興味深かったのですが、丁寧な引用による解説が多量にあるのでこれら作品に馴染みがない人でも付いていけないようなことはないと思います。
昭和という時代に愛着が深い著者が、昭和における「家族」の全盛期と衰退を感慨深く辿る、その過程を要約するのはなかなか難しいので、とにかく読んでみてください、としか言えません。
自分が世代的に興味深く感じたのは、「金妻」ですら最早20年以上前のものであり、既にこのような形で歴史的に検証される対象になってしまっている、という事実です。
この本での検証は昭和末年で終了していますが、その後の平成の時代においても日本の社会や家族の姿はさらに形を変えているはず。
それが客観的に検証されるようになるまでにはもう少し時間が必要なのでしょうか。