そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「思い出トランプ」 向田邦子

2008-08-26 23:03:33 | Books
思い出トランプ (新潮文庫)
向田 邦子
新潮社

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先日読んだ「家族の昭和」に触発され、改めて向田邦子を読んでみることに。
本当は「父の詫び状」にしようと思っていたのだけれど、行った本屋に売ってなかったので、まずは「思い出トランプ」から。

13篇の短編小説。
タイトルの「トランプ」は13という数に由来してつけたものとのこと。
向田邦子は、本作に収められている3篇で直木賞を受賞し、その僅か一年後に飛行機事故で帰らぬ人となったのでした。

不思議だったのは、初めて読んだ小説のはずなのに、部分的に既視感を抱いたこと。
具体的には「だらだら坂」。
この話は、設定とストーリー全体に覚えがあった。
それと「男眉」の一部分。
主人公の女性が、妹がお手洗いに行き水を流す音が聞こえた時、入れ替わるように手洗いに立った夫を「嫌だな」と思ったという一場面。
よその女が入った直後に手洗いに入らなくてもいいのではないか、という心情を切り取った箇所。
この「思い出トランプ」もテレビドラマ化されているようなので、もしかしたらそれを観て印象に残っていたのかもしれません。

それにしても、上記したお手洗いの一見に代表されるような、心理描写の繊細さというか的確さは本当に素晴らしい。
一篇一篇は文庫本にして20頁足らずの分量でありながら、それぞれに味わい深く、家族の、夫婦の、人間の「業」とも表わすべき物語を印象的に紡いでいきます。
やはり向田邦子は凄い。
コメント
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