空の拳 | |
角田 光代 | |
日本経済新聞出版社 |
序盤を読み始めていた時点では、正直、あまり好きになれる小説ではないような印象を抱きました。
何より主人公=空也のキャラクタ造形に違和感を憶えてしまって。
如何にも女性作家が創造した男性キャラというか、いくらなんでもこんな男いないだろ、という感じ。
酔っぱらうと女言葉になるってのが全く持って意味不明。
ドラマ性も薄くて、淡々と展開していって、ワルキャラ作りと経歴詐称の件りも、何だか亀田兄弟を安易にモデルにしてるようで心踊らず…
ところが不思議なもんで、読み進めていくうちにジワジワーっとくるんですよね。
空也がボクシングの世界に馴染んでいく位相が読んでいるこちらがらにもシンクロしてくるというか。
そうなってくるとこの淡々とした時系列の展開が、なんだか現実感を生む。
しかもそれが出版社の人事異動の周期で切り取られたりするからなお一層。
才能ある奴ない奴、精神的にタフな奴弱い奴、その辺の人間模様もまた現実感をじんわり滲み出す。
なんなんだろう。
やっぱりボクシングって素材が独特の現実感を呼び込むんだろうか。
殴り殴られるというプリミティブな営みが。
子供の頃『がんばれ元気』を読んだときの、踏み込んではいけない領域に触れたような、ある意味隠微な感覚が呼び戻されたような気がしました。