光圀伝 | |
冲方 丁 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
徳川光圀の生涯を題材とした伝記小説。
750ページに及ぶ大作ですが、そのことをあまり感じさせない充実ぶりで、先へ先へと頁を繰らせる力があります。
さすがに『水戸黄門』のイメージとは異なるだろうと予想はしていましたが、ここまでマッチョで聡明な光圀像が描かれるとは意外でした。
改めてWikipediaの徳川光圀の項などを読んでみると、この小説が史実を基本的に忠実に辿りながら書かれていることが解ります。
もちろん、小説の中で描かれる、宮本武蔵、沢庵、山鹿素行、林読耕斎らとの交わりについては多分にフィクションであるとは思いますが。
ただ、このフィクション部分がとても魅力的なんですよね。
個性的な脇役との交わりの中で、光圀のパーソナリティや想いの輪郭が明確になっていくというか。
特に印象的なのは、光圀が生涯で唯一正室として迎えた泰姫と、その傍に仕える左近という二人の女性像。
婚姻生活は泰姫が21歳の若さで病死することで僅か4年で終焉を迎えます。
その儚さと切なさ、そしてその哀切さを永く補い支えていく左近の人物造形が堪らなく魅力的です。
73歳まで生きた光圀は、その長い生涯の中で、数えきれないほどの多くの肉親や朋友たちの死に遭い、送り出していきます。
そして光圀自身、三男でありながら水戸徳川家の世継ぎとして選ばれたことの大義に悩み続け、義を果たすことを生涯のテーマとして生きていきます。
こうしたあたりが、光圀の人物像、そしてこの大河小説を一本筋が通ったものにしています。
由比小雪の乱、明暦の大火、赤穂浪士討ち入りなど、当時の世相を代表する歴史上の出来事も登場するし、徳川幕藩体制が次第に変容していく最初の一世紀の時代感が、光圀の生涯の背景として見え隠れするあたりも魅力です。
これ、いつか大河ドラマ化してほしいな。