そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『アンダーグラウンド・マーケット』 藤井太洋

2015-08-10 20:36:59 | Books
アンダーグラウンド・マーケット (朝日新聞出版)
藤井太洋
朝日新聞出版


舞台は2018年の東京。
「近未来」といえば近未来すぎるほどの設定だが、TPPによる移民自由化により東京には外国人によるコミュニティが根を張り、他方、日本人の若年層では正規雇用からあぶれた者たちが「フリー・ビー」としてエスニックコミュニティと地下経済に関わりながら生きている。

キーになるのが「N円」と呼ばれる仮想通貨。
貧しくも厳しい外国人とフリー・ビーの社会では、高率の消費税を負担せずに簡易に決済できるN円が普及し、N円による地下取引によるアンダーグラウンドマーケットの存在が肥大しつつある。
ECサイトの構築支援を生業とする主人公のフリー・ビーたちは、N円決済にまつわるトラブルに巻き込まれ、やがて巨大勢力の陰謀渦巻く危険な領域へと足を踏み入れていく。

仮想通貨「N円」は、否が応でもBitcoinを連想させるが、(名指しこそされないものの)Bitcoinが失敗した後にアジア発で侵入してきた通貨として描かれる。
EC、移民、税制、雇用環境…今日的な社会の課題が背景として設定され(TPPのほかマイナンバーにも言及される)、しかもその課題の捉え方が適切でリアリティがある。
フリーのクラウド型会計システムがデファクトスダンタードになっており、そこにN円による決済を組み込むスキルが重宝される、なんてかなりマニアックだが実に「ありそう」な話だ。
一方で、電車賃にも窮する主人公たちの移動手段が、高速で走ることのできる自転車である点が、小説に文字通りの疾走感を与えてくれる。

とにかく設定が魅力的だ。
が、本作では設定の魅力ばかりが勝って、お話自体はわりと淡白に終始してしまった印象。
この設定で様々なエピソードが読みたくなる。
コメント
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