極道の家に生まれた男が、人生の荒波に揉まれながら、当代一の女形歌舞伎役者として極致に至る一代記。
吉田修一の多彩さが感じられる一方、極道の描き方などは『長崎乱楽坂』の原点に立ち戻ったかのような感慨も覚える。
活弁士調のわかりやすく解説的な文体が特徴的で、自分のような歌舞伎素人でもストレスなく読み進めることができるが、歌舞伎に関する描写の良し悪しは判断が難しい。
ただ、少年時代の主人公が厳しく稽古をつけられる場面で、肩甲骨で身体の動きを憶えろと師匠から言われる件りは印象深い。
一方で、戦後日本社会の変遷を描く年代記的な一面も持つ小説であり、特に、歌舞伎界と裏社会の関係、或いはマスコミとの関係などはリアリティがあり、確固たるモデルがいるわけではないだろうが、今大御所となっている俳優やタレントも、かつてはこのような道を辿って芸能の世界を上り詰めていったのだろうな、などと想像を掻き立てられる。