そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『まち(祥伝社文庫) 』 小野寺史宜

2023-12-19 22:29:00 | Books
「ひと」から「まち」へ。

前作『ひと』では、天涯孤独となり居場所を喪った主人公が、周囲の人の情に支えられ守られていく様が描かれたが、本作では既に仕事(引越しバイト)も居場所(アパート)もある主人公が、居場所において出会う人たちとの関係性を深めていく中で、その居場所に対する愛着をさらに増していくイメージの物語。

前作に感じた昭和の人情ものテイストは薄まり、昭和が完全に失われゆく今の時代の、人と人との距離感を踏まえたコミュニティのあり方を心地よく描いている。爽快さは同じでも、後味はややさらっとして落ち着いた感じがする。その分、読後にちょっと物足りなさを感じるのも確か。

体格に恵まれ屈強な若者である点は違っても、素直で誠実な主人公の人柄は前作と共通。善人が多く登場する中、嫌な奴がごく一部出てくる構造も踏襲されている。ちょっとショッキングな暴力の場面があるのは印象的。

都内でもかなり地味なイメージの江戸川区平井にフォーカスが当てられる。河川を中心に町のディテールが好ましく描かれている。

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