海の向こうの中間選挙では、オバマ民主党が「歴史的大敗」を喫しましたが、
「溜池通信」さんの概括があいかわらず秀逸です。
「かんべえの不規則発言」11月3日付け<追記>部分より、以下引用。
(1)ティーパーティーの本質は、「金融危機一揆」なんじゃないだろうか。怒りの根底にあるのは、金融危機の責任者が処罰されていないのに、巨額の資金が投入されていることであるらしい。だとしたら彼らの怒りとは、90年代中盤の住専問題や不良債権問題に対する日本人の怒りに似ている。われわれはもう慣れちゃっていて、「公的資金を入れないと金融不安は消えない」とか、「金融危機の後の景気回復は脆弱になる」ことを経験として知っているけれども、その免疫がないアメリカ人の不安や苛立ちは相当なものであるに違いない。
(2)もっともそういう怒りがちゃんと世の中で連帯を呼び、1年半もたつと立派な政治運動に発展し、とうとう議員まで作ってしまうことは、アメリカ以外の社会では考えにくい現象といえるだろう。もちろん、今日誕生した「ティーパーティー議員」は、たぶんに「困ったちゃん」たちであって、これから現実のアメリカ政治を振り回して、景気回復や外交の安定を損なう恐れが、少なからず存在する。でも、こんな風に民意がちゃんと議席数に反映されるところは、「さすがにアメリカ」と言っていいだろう。有権者が怒らなくなったら、民主主義は終わりである。
(3)ところがこの運動、いろんな形で共和党を利した。まず、彼らは第三勢力を目指さなかった。ティーパーティーがロス・ペローのような第三政党を作っていたら、議席はひとつも取れなかっただろうし、「ラルフ・ネーダーがいなければ、ゴアがブッシュに勝っていた」という事態の逆が起きて、民主党が大笑いしたかもしれない。ところがティーパーティーは対外的には「一揆」を叫びつつ、既成政党の中の右派勢力という位置づけに甘んじた。彼らのエネルギーを追い風にして戦えたことは、共和党にとっては大ラッキーであった。
(4)ティーパーティーは草の根の怒りを原動力にしている。彼らのテーマはシンプルで、"Limited Government""Tax Reduction""Balanced Budget"である。「政治のテーマはひとつだけでいい」という法則がキレイに当てはまり、こういう運動こそが力を持つ。ゆえに今回の選挙では、「同性愛結婚」や「人工妊娠中絶」といった社会問題がどこかへ行ってしまった。呆れたことに、「アフガン情勢」でさえも話題にならなかった。これが出てくると、共和党は内部分裂してしまうのだが、「テーマの一本絞り」のお陰で下手な喧嘩をしなくて済んだ。
(5)そのために民主党側はとてもやりにくかった。例えばこの2年間の業績として、「オバマ政権は医療保険改革をやったじゃないか」と言いたいところだが、それを言った瞬間に「そのお陰でますます財政赤字が増える」という反撃を受けてしまう。だから、この件について沈黙せざるを得なかった。なにしろこの件は、ティーパーティー運動の「怒りポイント」なのだから。
(6)さらにティーパーティーの飛躍によって、共和党の旧悪は速やかに忘れ去られた。ひとつにはブッシュ前大統領が、完全に人前から姿を消していることも大きい。この辺のことを考えると、ティーパーティーを組織した人たちは、相当に賢いのかもしれない。つまり「草の根運動」は意外と「人工芝」だったのかもしれない。そういえば、「水曜会」のノーキストの噂を最近聞かないが、彼はいったい何をしているんだろう?
(7)さて、この事態は日本政治にも確実に影響するだろう。さしあたって明日くらいから、自民党では「共和党の勝利に何を学べるか」という議論が始まることだろう。その場合、上のような分析が有用になるかもしれない。不肖かんべえでよろしければ、いつでもお相手いたしますぞ。・・・などと言いつつ、明日は民主党の会合で米中間選挙について語る予定であったりする。わはは。
はてさて、我が国の民主党も相当ボロボロな状況になりつつありますが、それでも内閣支持率が40%くらいもあるというのは、ティーパーティのような国民の不満の受け皿が存在しないことの証左でしょうか。
こちらの自民党が、あちらの共和党のように「旧悪」が忘れ去られるためには、まだまだいなくならなきゃいけない人がいっぱいいるってことでしょうか。
ティーパーティは"Limited Government"志向が徹底してますが、こちらでは民主も自民も寄って立つ先は違うにしても利益集団頼みのパターナリズム志向という点では同じ穴の狢ですからなあ。