収穫逓増の貿易理論は国際収支が均衡しない理由を説明するし、政府介入を正当化する。クルーグマンの理論は、そもそもは伝統的な新古典派の「比較優位論」を否定する、複雑系の貿易理論の端緒となる反自由貿易論だった。新古典派的な比較優位論を打ち崩す内容のものなのだ。
ところが、クルーグマン本人は、いったんは収穫逓増理論で新古典派の比較優位論を崩し、複雑系の理論に足を踏み入れ始めたかに見えたが、その後、保守化した。1990年代の半ばごろから、収穫逓増の研究を打ち止め、「比較優位論はたいへん美しい理論であり、ただ経済学者だけが理解できるようである」などと述べたりするなど、態度を豹変させたのである。 . . . 本文を読む