今回の本で論じたことの目玉はだいたい以下のようになります。(他にも多くのことを論じています)
(1)江戸末の慶応年間に現れた憲法構想を紹介することを通して、天皇を神格化する王政復古体制とは別の、天皇の象徴的地位を維持するより穏健な近代化の途があったこと、江戸の憲法構想は決して単純な西洋思想の模倣ではなかったことを論証する。
(2)戦前の皇国史観、戦後の講座派マルクス主義史観、司馬史観などが、本質的に連続しているものであることを論証し、それらすべてを批判する。マルクス本人も批判する。
(3)折しもNHKで「映像の20世紀 バタフライエフェクト」を放送しているが、「バタフライ史観」を全面に出した、歴史叙述を行う。バタフライ史観の源流として、エピクロスとルクレティウスの哲学を評価する。
(4)丸山眞男は、江戸を支配した朱子学が解体され、国学的思惟が日本を近代化したと論じたが、むしろ江戸の朱子学は近代的立憲政体や天賦人権論や普遍的な国家平等意識と親和的であったのであり、神話史観を強制した国学は、日本を近代から遠ざけたことを論証する。
(5)右派は西洋的な人権概念を、個人主義的な価値観を押し付けて、日本の「国体」を否定したと論じるが、明治時代に「創造」された「国体」こそが、日本の伝統から乖離している。江戸の儒教的伝統に基づく内発的な人権概念は、より人間の個性を尊重し、社会福祉を重視するものであったことを論証する。 . . . 本文を読む
この本が長期的に何を目指しているのかというと、「歴史教科書の書き換え」です。チラシにあるように、無勅許での日米修好通商条約調印を断行したのは井伊直弼ではなく松平忠固であるということと、日米修好通商条約は、教科書で言われているような不平等条約ではない、日本には関税自主権もあったのだ、という事実です。 . . . 本文を読む
本年も、インドネシアにおいて、宇沢先生の晩年の想いをあざ笑うかのように大規模な森林火災が発生し、170万haが燃えたと言われている。気象衛星ひまわりの以下の画像を観て欲しい。宇宙からも、カリマンタンやスマトラから濛々と立ち昇る煙がくっきりと見えるのだ。
貿易自由化で輸出によって外貨を獲得しようと、野放図な野焼きが繰り返され、その日が森林に延焼してこうなっているわけだ。これだけ森林を破壊し、土壌を乾燥化させ、二酸化炭素を排出し、地球の気候が何ともないと思っている人々はよっぽどどうかしているのだ。
もう遅すぎるかも知れないが、宇沢先生の提案が実現すれば、こうした破局的な事態も緩和されるはずなのだ。
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手前ミソで恐縮ですが、まさのあつこさんと梶原健嗣さんと私との共著で『社会的共通資本としての水』(花伝社)という本を出しました。紹介させていただきます。
出版元の花伝社には非常に美しい装丁の本に仕上げていただいて、感謝しております。何か新選組の羽織を連想させる装丁です。
日本の水行政の「闇」に切り込むつもりで書きました。この間、経験してきた「小説より奇なり」と思うしかなかった、唖然とする . . . 本文を読む
2015年5月5日付けの『東京新聞』の特報面で、宇沢弘文先生と私との共編著である『社会的共通資本としての森』(東大出版会)が紹介されました。記事の一部を以下に貼り付けておきます。
「なぜ経済学者の宇沢氏が晩年に森の本を編集する気になったのか?」という質問を受けました。共編者の私の立場として、なぜ宇沢先生が森林に対して強い関心をもっておられたのかを説明しておきました。
一つは、宇沢先生が気候 . . . 本文を読む
宇沢先生は、経済学以外の諸分野の研究者たちと協働で、社会的共通資本概念を深化・発展させるため、東大出版会から「社会的共通資本シリーズ」の刊行しておりました。これまで『社会的共通資本としての医療』『社会的共通資本としての川』が出て、この『森』で三冊目です。以下、教育、都市、金融・・・・と宇沢先生の構想の中で続刊の計画はできていましたが、先生の逝去にともない、先生が自ら編集された本としてはこれが最後の本になりそうです。
本書において、社会的共通資本のネットワークは、人間の経済活動・制度資本・自然環境などが相互に作用しながら共進化し、生成・発展していくシステムであると捉えています。社会的共通資本概念の深化を試みました。本書は、森林を事例に、森林の公益的機能、森林文化、森林管理制度が相互に作用しながら進化・発展していくという認識で叙述されています。社会的共通資本に関して、啓蒙的な本よりも一歩踏み込んだ内容を理解したい方、ぜひ参照下さりたく存じます。
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この間全くブログを放置しておりました。久々の投稿なのに手前味噌な話題になります。
TPPに関連して、本を一冊出しましたので紹介させていただきます。本のタイトルは、『自由貿易神話解体新書 -関税こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社、1500円)というものです。
本書では、農産物と工業製品は財の性質が異なり一律に扱ってはいけないこと、自由貿易は失業と総需要不足をもたらすこと、穀物価格を不安定化 . . . 本文を読む
懐疑論者の方々は、「排出権取引制度とは、新しい金融商品をつくって投機活動を繰り広げようというEUの金融業界の新戦略なのではないか。→ 彼らが温暖化危機をあおるのは排出権取引で儲けようという私的欲望に基づいているのではないか。→ 故に彼らがあおる温暖化危機そのものが虚構なのではないか」というロジックで、温暖化という現象そのものまで否定してしまっています。しかし最初の二点に関しては半分は当たっていると私も思いますが、最後の三点目はとんでもない論理の飛躍と言わざるを得ません。
編者の宇沢先生は、京都議定書が採択された当時から排出権取引制度に反対の論陣を貼っていました。宇沢先生の基本構想は京都議定書以前から、国際的な基準で炭素税を徴収し、その税収を大気安定化国際基金がプールし、各国が実施する植林活動への補助金として拠出するというものです。その際、先進国と途上国の公平性が保たれるよう、一人当たりGDPに比例させて炭素税には格差をつけます。 . . . 本文を読む
中国というと「必ず崩壊する」という崩壊論者から「光輝く世界の大国になる」という繁栄論者まで、その両極端の主張が論壇でそれぞれは華々しくせめぎ合っております。
私に言わせれば、その両者の議論がそれぞれ「こうあって欲しい」という主観的な思い込み先にありきの議論です。自分の願望にとって好都合な現象をつなぎ合わせて妄想をムクムクと膨らませているだけなのです。
実際、「崩壊論者」がこの本を読めば「崩壊」の根拠をたくさん拾い出すことができるでしょうし、「繁栄論者」が読めば「繁栄」の根拠を見い出すことができるでしょう。 . . . 本文を読む
私の政策研究への批判点といえば、彼らが現場に立脚にしていないが故に、欧米が各自の利害から仕掛けてくる「トレンド」を無批判に受け入れすぎているという点に尽きます。国際レベルでの「流行」を作り出すのは欧米で、日本の政策研究者は、欧米の戦略に自覚的に対峙するしたたかさもないまま、欧米発のトレンドに受け身で流されがちなのです。逆に、私の地域研究への批判点はといえば、「地域研究者の政策マインドのなさ」という一言に尽きるでしょう。日本の地域研究者ときたら、地域の現場にドップリと沈澱して、地域の社会構造をオタッキーに、微に入り細に入り、こと細かに記述し、それでよしとする風潮が強すぎるのです。 . . . 本文を読む
これまで中国の農民は、条例に反して、違法に植林地でアグロフォレストリーを実行することで、政府の施策へ抵抗の意志を示してきました。ついに中国政府は、農民の違法行為を追認し、それを合法化するに至りました。
中国の政策転換は、しばしば農民の違法行為を政府が追認するという形で起こります。1978年からの集団農場の解体と農地の家庭請負制の導入も、安徽省の農民の命をかけた違法行為を、小平が追認したことが始まりだったのです。
アグロフォレストリーの合法化という今回の中国政府の政策変更も、農民が政府に勝利した結果とも言えるのでしょう。 . . . 本文を読む
安倍首相の最後の外交舞台となった先にシドニーで開かれたAPEC首脳会合の特別声明で、「2020年までにAPEC域内の森林面積を2000万ha増やす」という数値目標が入りました。これだけ増やせば炭酸ガスの排出量の11%削減に相当します。この数値目標に関しては、大いに評価します。
それにしてもAPECといえば、以前はワシントンコンセンサスの市場原理主義的改革ばかりをひたすら話し合う場でしたが、今 . . . 本文を読む
森林は市場原理主義に依拠しても、官僚主義に依拠しても適切には管理されない。資本主義と社会主義の失敗を乗り越えつつ、社会的共通資本として、森林を炭酸ガスの排出源から吸収源へと転換させるためには、どうすれば良いのだろうか。市場原理主義はいけないが、市場インセンティブは活用する必要がある。おおまかな土地利用計画は必要だが、住民の意向を無視した官僚主義的計画に陥ってはいけない。 . . . 本文を読む
私の最近の研究を紹介させていただきます。興味のない方スキップして下さい。近頃、私も編著者の一人である、『Decentralisation and State-Sponsered Community Forestry in Asia』というワーキングペーパーが出ました。ウェブ上で公開しており、ここから全文ダウンロードできます。
この本の内容は多岐にわたるのですが、私たちが力をこめて書いた論点を一つ紹介させていただきます。それは「中国の土地の集団所有制を評価する必要がある」という論点です。
「都市と農村の戸籍差別を撤廃せよ」と主張する勢力は、誰が見ても「正義」と思える主張をしています。しかしその背後には、農村の集団所有制を解体し、農民から土地使用権を奪った上で、企業農園を拡張し、農村の労働力を大量に都市に流入させて低賃金労働力を確保しようという市場原理主義的な考えを持っている場合が多いのです。
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最近出た本を一つ紹介させていただきます。井上真編『躍動するフィールドワーク -研究と実践をつなぐ-』(世界思想社、1900円)という本です。この本は、人文社会科学分野における熱帯林研究の第一人者である井上真さんと、井上さんに何らかの形で教えを受けたことのある人々によって書かれたものです。私は第5章「をとして認識する」を書いています。
写真は私の担当した章に挿入したものです。二枚ともフィリピン . . . 本文を読む