問題は、日米修好通商条約の付属文書である「貿易章程」の末尾にある次の文章である。
和文正文
右(注:関税率規定)は神奈川開港の後五年に至り日本役人より談判次第入港出港の税則を再議すへし
英文正文
Five years after the opening of Kanagawa, the import and export duties shall be subject to revision, if the Japanese government desires it.
和文では、5年後には日本側が提起次第、関税率規定を再議すべしとなっていて、関税率の改訂には再交渉が必要ということになり、日本に関税自主権があるとは言えないことになる。
しかし英文の方を見て欲しい。英文の方を訳せば、「神奈川開港から5年の後、日本政府が望めば、輸入・輸出税は改訂される必要がある」という意味になる。つまり日本が関税率を改訂する(revision)と希望すれば、法的義務としてアメリカ側はそれを承認せねばならないのだ。すなわち、関税率を決める権利は日本側にのみ帰属するのであるから、日本に関税自主権はあることになる。 . . . 本文を読む
中央に鎮座している「稀代な名医」が大奥の最高権力者である上臈御年寄の姉小路局である。歌川は、江戸城の実質的な最高権力者は姉小路局であると認識し、病気を抱えて問題のある男たちを適材適所で配置して、なんとか政権を切り盛りしているという様子を風刺している。
諸役人の人事を指揮するのは(現在でいえば内閣人事局)、大奥の姉小路だというのは、当時の江戸市中では評判だった。 . . . 本文を読む
NHKの大河ドラマ「坂の上の雲」のオープニングの渡辺謙のナレーションを聞いていたら、その歴史認識のあまりの杜撰さ、歴然とした誤謬の数々に唖然とした。以下の動画は、司馬遼太郎の原作の一節をそのまま、NHKがオープニングとして採用したものだ。
これを聴くと、司馬遼太郎こそが「自虐史観」の持ち主であることがよく分かる。こんなウソをそのまま信じてナルシズムに浸っているネトウヨ諸氏や日本会議の皆さんも、 . . . 本文を読む
じゅんちゃんさんが運営する哲学入門チャンネルにゲスト出演させていただいたインタビューの後編です。
前半は、
*明治維新によって長州・薩摩が政権を取ったことにより、むしろ日本の近代化や重工業化は遅れたこと
*江戸時代の大奥という女性権力機構が老中の人事を操って、松平忠固のような穏健で合理主義的な人物を老中にし、攘夷派の台頭を抑えていたこと
などを話し、最後の方では
*日本会議史観の根本 . . . 本文を読む
哲学系ユーチューバーのじゅんちゃんさんが運営する「哲学入門チャンネル」からゲスト出演で呼ばれました。お恥ずかしながら、動画をシェアさせていただきます。近刊の『日本を開国させた男、松平忠固』(作品社)の中から、「日米修好通商条約で関税自主権を失った」という通説は誤りであり、当初の条約では実際には日本に関税自主権はあったのだという部分を解説しています。しかしその後、下関戦争の敗戦の結果、本当に関税自 . . . 本文を読む
来年のNHK大河ドラマの「青天を衝け」。前半では、血洗島村(現埼玉県深谷市)の豪農であった渋沢家と、のちに渋沢栄一が仕える徳川慶喜の出身藩である水戸徳川家をパラレルに描くという設定のようである。水戸徳川家といえば、明治維新を生んだテロリズムの思想の発祥地である。若い頃の渋沢栄一も水戸学思想を信奉し、横浜焼き討ち(すなわち居住する外国人の皆殺し)を計画するという、ISの如き、恐るべきテロリストであった。前途ある若者たちを次々に自爆テロへと追いやっていったのが、水戸学という思想の魔物。このテロリズムの思想を、いったい大河ドラマはどう描くのか、興味津々である。 . . . 本文を読む
日本の近代化を支え続けた、生糸の技術は江戸文明の遺産であり、日本は太平用戦争に突入する直前まで、江戸の遺産で食っていたと言えるのです。来年の大河ドラマの主人公である日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は官営の富岡製糸工場の設立などに尽力しました。しかし、これは従来の「家内制手工業」から規模の経済効果を働かせる「工場制工業」へと転換させる契機になりましたが、そこで生産される生糸の品質は変ったわけではなく、国際社会で高い評価を受けていた生糸の質そのものは江戸の技術です。ちなみに言えば、渋沢栄一も、もともと深谷の百姓で幕臣に取り立てられて、公費で海外留学までさせてもらっていた徳川政権の人間です。近代的工場制度まで徳川政権の遺産と言えるでしょう。 . . . 本文を読む
昨日(2020年5月2日)の『日本経済新聞』の書評欄で小川誉子美著『蚕と戦争と日本語』(ひつじ書房)が紹介されていた。私もこの本は非常に重要だと思ったので、少し紹介させていただきたい。
この本で提示された諸命題の中で、もっとも刺激的なのは、幕末から明治初頭の欧州で日本語の学習熱が高まった背景は、日本の進んだ養蚕技術を学ぶためだった、というものであろう。
同書の帯に「なぜ日本語を学ぶの . . . 本文を読む
長らくブログの更新を怠っていて申し訳ございません。手前ミソで恐縮ですが、この一月に出た本を一つ紹介させていただきます。『東アジアの弾圧・抑圧を考える 19世紀から現代まで 日本・中国・台湾』(春風社)。私も共著者の一人です。
昨今の状況に照らし合わせて考えると、まことに残念ではありますが、タイムリーなテーマと思います。扱っているのは歴史的な諸事件ですから、最近の中国や台湾や日本の弾圧が扱われ . . . 本文を読む
丸山穂高衆院議員(大阪19区)が北方領土を取り返すには「戦争をしないと、どうしようもなくないですか」と発言。この発言の真偽を検証してみたい。
そもそも択捉島とウルップ島のあいだに日露の国境線が引かれるのが確定したのは、1855年の日露和親条約においてである。この条約では択捉島まで日本領とするとともに、ロシアが領有権を主張していた樺太についても、真に友好的な協力関係を進める中で、交渉によってロシアを譲歩させ、樺太を両国の雑居地とするという大きな交渉成果を勝ち取った。困っている相手国を助けてこそ、友情を深めてこそ、領土交渉もうまくいくのだ。
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気が付いたら大河ドラマ「西郷どん」も明日で最終回を迎える。
幕末編は、あまりの歴史改ざんぶりに辟易とした気分で視聴していたのだが、明治時代に入ってから結構面白くなった。
長州閥の汚職体質 -国家予算・資産を私物化して政権中枢を取り巻くお友達に分配し、私腹を肥やすという現在に続く体質- もちゃんと描かれていた。長州政権の肝いりで制作されたドラマにしては、がんばったと思う。
山縣有朋は、長 . . . 本文を読む
テロを実行するまでに西郷を追い込んだ原因としてドラマで描かれたのは、「フランス公使のロッシュが徳川慶喜に薩摩の割譲要求をしている」という、史実にない虚構であった。この虚構を、「脚色」として許してしまってよいのだろうか? これは「脚色」といっても許されるレベルではないと思う。フランスという現存する国家の行為にかんして、当事者たちがやっていないことが明らかであるにもかかわらす、「やった」ことにしてしまうのは、「ねつ造」であり、創作とは違う。これは許されないだろう。フランス大使館はNHKに抗議せねばならないレベルだ。 . . . 本文を読む
日本を外国に売り渡そうとしたのは、ロッシュと組んだ慶喜ではなく、イギリスと組んだ西郷であったのだ。実際、少なくともフランスは横須賀製鉄所(横須賀造船所)の建設などを援助し、日本が自力で製鉄をし、造船もできるようになるよう支援していた。イギリスはどうか。日本が自力で製鉄をし、軍艦を国産できるように促すのではなく、むしろそれを奪い、戦艦や武器などイギリス製のものを売りつけていく戦略であった。日本を、イギリスの軍事産業の従属国に変えていったのだ。
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大河ドラマ「西郷どん」、初回では薩摩の男尊女卑文化が鮮烈に描かれていた。ヒロインの岩山糸が、自分も勉強したい、剣術もやってみたいと願うが、薩摩には女であるというだけで学ぶ権利は存在しない。道の真ん中を歩くこともできない・・・・。マララちゃんとタリバンを思い出してしまった。
薩摩の郷中教育は、「先進的」と評価されているが、女子を排除し、男尊女卑の価値観を植え付ける教育の何が先進的なのだろう? . . . 本文を読む
睡り葦さんから、水戸学・尊王攘夷および横井小楠と公議政体論について投稿をいただきました。コメント欄に留めておくのはもったいないので、新記事として転載させていただきます。以下の論考に対する私のコメントは、また記事を改めて書かせていただきます。以下すべて引用です。
******睡り葦さんのコメント転載2017-05-29 00:15:37*******
その1
関さんの一連の御記事に . . . 本文を読む