代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

トランプは帝国であることを止めた歴史的な大統領

2020年11月12日 | 政治経済(国際)
 ジャーナリストの木村太郎氏が「トランプは新しい戦争を始めなかった唯一の大統領。世界平和に貢献した」と評価したことについて、私は「えっ、ジミー・カーターは新しい戦争を始めてないではないか」と素朴な疑問を持った。
 そこで、戦後の大統領が在任中に行った主なアメリカの軍事介入をまとめてみた。細かいのも数え上げるとキリがなさそうである。以下に挙げたのは主なリストだ。前政権の始めた戦争が次の政権に続いているケースは(ジョンソン政権のベトナム戦争がニクソン政権に続いているなど)、最初に始めた政権のみに掲載した。
 こうした表を作成すると悩ましいのが、CIAが現地の軍部などを焚きつけて、武器と作戦を支援しながら軍事クーデターなどを起こしたケースである。これらはアメリカの軍事介入に数えてよいのかどうか議論があろう。そこで以下の表では、米軍が直接に軍を派遣して介入してはいないが、しかし背後で強力に米軍が支援して発生した主な紛争については、カッコを付けて表記した。

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帝国アメリカの第二次大戦後の主な軍事介入リスト


トルーマン政権(1945~1952)
 朝鮮戦争

アイゼンハワー政権(1953~1960)
 (イランのモサデク政権転覆)
 グァテマラ空爆、同国のアルベンス政権転覆

ケネディ政権(1961~1963)
 キューバ侵攻(ピッグス湾事件)
 
ジョンソン政権(1963~1968)
 ベトナム戦争
 ラオスへの軍事介入
 (インドネシアのスカルノ政権転覆の軍事クーデター)

ニクソン政権(1969~1974)
 カンボジア空爆とシアヌーク政権転覆。 
 (チリの軍事クーデターによるアジェンデ政権転覆)
 
フォード政権(1974~1976)
 (インドネシア軍による東チモール侵略の支援)

カーター政権(1977~1980)
 (アフガニスタンでのムジャヒディン支援)

レーガン政権(1981~1988)
 グレナダ侵攻
 リビア爆撃
 (ニカラグアの右翼ゲリラ支援をはじめとする南米諸国への軍事介入)

ブッシュ(父)政権(1989~1992)
 パナマ戦争
 湾岸戦争

クリントン政権(1993~2000)
 ソマリア空爆と軍事介入
 スーダン空爆
 旧ユーゴスラビア内戦への軍事介入

ブッシュ(子)政権(2001~2008)
 アフガニスタン戦争
 イラク戦争
 
オバマ政権(2009~2016)
 リビアへの軍事介入(空爆含む)
 シリアへの軍事介入(空爆含む)
 (イエメン内戦への介入)

トランプ政権(2017~2020)
 バクダットでイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官らを空爆


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 私は、戦後の大統領でカーター政権のみは新しい戦争を始めていないと考えていた。
 しかし、ウィリアム・ブルムの『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)を読むと、ソ連がアフガニスタンに侵攻する以前の1979年7月から、アメリカはイスラム原理主義者(ムジャヒディン)たちに軍事支援をして、アフガニスタン人民民主党の親ソ連派政権を打倒しようとしていた(サイクロン作戦)。
 たまりかねたソ連が同年の12月にアフガンへの軍事進攻を決定し、今日まで続くアフガンの紛争のきっかけとなった。アフガン戦争の原因を作ったのはソ連の軍事進攻ではなく、ソ連を挑発する目的でイスラム原理主義者たちを支援した米国なのである。つまり、カーター政権ですら、アフガン戦争という新しい戦争の原因をつくっていたのだ。

 このカーターのムジャヒディン支援は、米軍の直接的な軍事介入といえるか微妙なのでカッコで記しておいたが、その後のアフガニスタンの地獄の惨状を思えば、カーターは重罪である。
 トランプ政権は、タリバンとの和平を実現させ、米軍を撤退させ、カーターが引き起こしたといってよいアフガン紛争の幕引きをしようとしたわけである。はたしてバイデン政権は、このトランプの平和の遺産を引き継げるだろうか?
 戦後の歴代大統領の中で、戦争をしていないという点でもっともマシと思われているカーターですらこれなのだから、他は推して知るべしである。

 オバマの罪もきわだっている。シリアやリビアやイエメンの今日の惨状を生み出したのはオバマであるといって過言ではない。
 トランプ政権でもイエメン内戦は続き、サウジに武器援助をしているのは米国であることから、トランプもまったくシロというわけではない。しかしイエメン内戦に介入を始めたのはオバマだから、トランプが始めたものではない。よってトランプ政権のリストにこの戦争はのらない。
 トランプ政権のリストも空白にはならない。トランプは、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆して殺害し、イランも報復した。しかし幸い、トランプは報復の連鎖を自制し、戦争には至っていない。戦後の歴代大統領の中で新しい戦争を始めていないのはトランプだけというのは、あながち誇張ではない。
 バイデンは、トランプの武器輸出がイエメン内戦を劇化させていると批判しているが、それを言うのであれば、オバマ政権時代に副大統領である自分の責任をまずは自己批判すべきであろう。バイデンは、オバマ政権時代の戦争犯罪をすべて明らかにして、シリアやリビアやイエメンの人びとに謝罪の上、平和のために尽くすべきであろう。
 バイデン新大統領が自己批判をした上で、トランプが布いた「脱帝国化」の途を継承するのであれば、それは称賛されるだろう。バイデンも、新しい戦争を始めないという点で、トランプのレガシーを継承して欲しいものである。いずれにせよトランプは、アメリカの戦争中毒を終わらせ、脱帝国化の途を歩み始めた歴史的な大統領と言えることは間違いない。

 日本はトランプ在任中、法外な値段でアメリカ製の武器を買わされ続けた。これは多分に安倍政権の責任であるとはいえ、日本人として甚だ遺憾なことではある。
 しかし、血に飢えた軍産複合体は、たえず世界のどこかで戦争を起こして、武器を売りつけて儲け続けることを欲している。日本が米国製兵器の爆買いを続け、軍産複合体の欲望を満足させたので、他の地域で戦争が発生することを回避することには貢献したかも知れない。
 しかしながら、こんなことを続ければ、いずれ日本が当事者になる形で、買いためた武器の在庫処分が行われることになってしまう。リビアやシリアやイエメンの人びとの地獄の苦しみを、今度は私たち日本人が味わう番がやってくるのだ。
 
 私は以前、戦争中毒のアメリカから戦争をなくすためには、軍事産業をすべて公有化し、彼らをすべて公務員にしてしまうのがよいのではないかと書いたことがある。以下の記事。
 https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/2d95113ea7ec64d6e2ec9565a691aecb

 軍事産業が営利企業の手に握られている限り、こっそりテロリストに武器を流すといった裏工作を行ってまで、無用な戦火を煽る必要性が必ず発生する。彼らがみんな公務員になって安定した生活が保障されれば、そこまで汚いことをする必要性もなくなるだろう。
 アメリカ帝国の歴史に真に終止符を打つためには、サンダースのような社会主義者が大統領になって、軍産複合体を国営化してくれるのが最善であろう。


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2 コメント

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帝国を取り戻すためのバイデン・フェアがもたらす世界の腐敗と混迷。 ( 睡り葦 )
2020-11-16 02:34:52

 2016年11月09日の「トランプ大統領を歓迎する」という御記事に触発されて、ウェブログ「マスコミに載らない海外記事」11月9日の記事から11月5日付ウィキリークスのジュリアン・アサンジのインタビューを引用いたしました。

 アサンジは、ヒラリー・クリントンvsトランプとなった2016年米大統領選挙の見通しについて「トランプは勝利することを許されないだろうというのが私の答えです。・・・トランプを支持している支配体制=エスタブリッシュメントはありません。・・・銀行、諜報機関、兵器会社・・・すべてヒラリー・クリントン支持で団結しています。マスコミも、マスコミのオーナーも、ジャーナリスト連中さえも」と語っています。

 関さんがおっしゃるように、トランプの持つ政策は、米国をグローバル新自由主義と一体となった帝国主義軍産国家から、利己的・保護主義的ではあれ、世界覇権の維持に血道をあげることのない国民国家へとカードを替えるものになると思います。最初の帝国主義世界総力戦であった第1次世界大戦からほぼ100年というタイミングで。

 ・・・それから4年、サンダースを抑えるために引き上げられた80歳近くなったオバマ政権元副大統領の仮面をつけたカマラ・ハリスが、バラク・オバマの生まれ変わりとしてヒラリー・クリントンに代わり、歴史は悲劇として繰り返す、ということでしょうか。トランプが投げ捨てようとした帝国を取り戻すために。

 いま眼前に見ている、茫然とするようなバイデン・フェアという黒魔術がもたらすのは、SARSーCoVー2の恐怖がかろうじて維持する世界の、さらなる腐敗と混迷であるにちがいありません。

 得票操作マシーンとマスメディアによる強制判定に対する敗北を拒否するトランプの一見絶望的な闘いを支持せざるを得ません。松平忠固の蹉跌と、それにかかわらずもたらされた、歴史に込められた正気を想起しつつ。
 
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バイデンの暴走を抑えるカギは? ()
2020-11-19 23:43:49
睡り葦さま

 バイデンは中東から手を引くというトランプの構想を撤回し、中東への軍事介入を続ける方針を明言しています。いまから恐ろしくなります。
 それを阻止できるか否か、ひとえにアメリカの民衆運動の力にも依るのではないかと思います。今回、バイデンが勝てたのは、前回は造反したサンダース支持者たちが、今回はバイデンに投票したからです。
 中東への介入を続けるようなら、サンダース支持者は大規模に造反して、4年後にはもう一度トランプに投票するぞ・・・という勢いでバイデン政権の歯止めになる必要があろうかと存じます。
 目覚めた人々が、軍産金融複合体の暴走を止める力になることを切に願います。
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