御手洗探偵と同様に有名な神津恭介が登場する「人形はなぜ殺される」(高木彬光)は、このタイトル自体がとても挑戦的だ。著者は序詞の中で「この題名はそのまま、…読者諸君への挑戦の言葉」であることを示し、そして実際その意味・理由がわかった時、全ての真相が明らかになる。さらにこの作品では、魔術・奇術・降霊術などの要素が絡んでおり、ジョン・ディクスン・カーのような怪奇趣味の雰囲気を味わうこともできる。この光文社文庫版では「彬光とカー」というタイトルで二階堂黎人氏が一筆寄せているが、そこでは高木彬光もカーを愛読し翻訳さえしたと紹介している。確か「刺青殺人事件」は密室ものだったから、著者とカーの思いには似たところがあったのだろう。そして本格ものを扱ったという意味では「読者への挑戦」が二度もなされていることから、この作品は著者にとって自信作であったに違いない。私自身は限定された怪しい人物達の中で作者のミスディレクションにまんまとひっかかり、犯人を特定することはできなかったが、「意外な犯人」、それを示す伏線など推理小説の醍醐味を感じることのできる、存分に楽しめるストーリーだった。
「黒いトランク」(鮎川哲也)は「ミステリーベスト100」を見るまで知らない作品だった。たまたま光文社文庫版を古本で見つけたので読んでみた。これはアリバイ崩しのミステリーだ。この手の物語は犯人の目星がつき、その行動を追い、どうしてもアリバイが成立するのを何度も仮説を挙げては崩そうと推理する、そしてそれを実証するために足を使って捜査するというのが定番だ。特にこの作品は「樽」と比較されるという。確かにフレンチ警部で有名なクロフツの作品もそのような筋立てだった印象があり、急な展開はないけれど少しずつ真相に近づいていくという地味な面白さがあった。本作はある意味主人公の「トランク」がどのような動きだったのかが問題となり、しっかり考えないとついていくのが難しい。メモを取りながら読んだというレビューもあったほどだ。ただ、他の3作品と違って事件を追う警部の過去の恋という要素が盛り込まれているのが全体の緊張感を和らげている。この作品は警察署間の情報のやり取りを含め、確かに足で稼ぐ作品だ。しかし、少しずつ真相に近づいていく中で、最後の大きな謎が立ちはだかる。その解決を待つことができずに最後まで読んでしまうという、通好みの良作である。
「黒いトランク」(鮎川哲也)は「ミステリーベスト100」を見るまで知らない作品だった。たまたま光文社文庫版を古本で見つけたので読んでみた。これはアリバイ崩しのミステリーだ。この手の物語は犯人の目星がつき、その行動を追い、どうしてもアリバイが成立するのを何度も仮説を挙げては崩そうと推理する、そしてそれを実証するために足を使って捜査するというのが定番だ。特にこの作品は「樽」と比較されるという。確かにフレンチ警部で有名なクロフツの作品もそのような筋立てだった印象があり、急な展開はないけれど少しずつ真相に近づいていくという地味な面白さがあった。本作はある意味主人公の「トランク」がどのような動きだったのかが問題となり、しっかり考えないとついていくのが難しい。メモを取りながら読んだというレビューもあったほどだ。ただ、他の3作品と違って事件を追う警部の過去の恋という要素が盛り込まれているのが全体の緊張感を和らげている。この作品は警察署間の情報のやり取りを含め、確かに足で稼ぐ作品だ。しかし、少しずつ真相に近づいていく中で、最後の大きな謎が立ちはだかる。その解決を待つことができずに最後まで読んでしまうという、通好みの良作である。