
作者自身も一流の奇術師だったという。そして、この作品の素晴らしさのひとつは、「11枚のトランプ」という作中小説にある。登場人物一人ひとりに関わる、決して一般的には披露できない限定的な手品・マジックが合計11本用意されている。マジックのノウハウも述べられながら、一見不思議と思われる現象があっさり種明かしされている。この部分だけでもとても読み応えがあるのだが、これがこの物語の一部として、実は犯人解明につながる手がかりとなっているのだ。そして探偵役の人物が解明した真実も最後の最後で大逆転される。何とも鮮やかな終わり方であった。手品に夢中になった幼い日の頃を思い出しながら読むことができた。なお著者には美貌の女奇術探偵「曾我佳城(そがかじょう)」を主人公とした奇術にまつわる短編集が2冊出ている(秘の巻・戯の巻)。私は未読だが、古本で手に入れている。これから読むのが楽しみだ。
以上、4作品を紹介したが、どれも昭和の香りのする、古き良き時代のミステリーであった。「東西ミステリーベスト100」には未読の素晴らしい作品がまだまだたくさんあるということで、ミステリー小説ファンとしての私の探求はこれからも続く。