「さむがりやのサンタ」「スノーマン」の愛らしい作風でおなじみの、イギリスの絵本作家、レイモンド・ブリッグスが大好きな私(「サンタの夏休み」なんてもう…可愛くておかしくて)。
今回は「風が吹くとき(82年初版)」を御紹介します(現代は When the Wind Blows)。私は篠崎書林刊行のものを持っていますが、どうもいろんな出版社から出てるらしく、少しずつ内容も違うそう。マスコミでかなり評判になり、アニメ映画にもなりました(日本語訳は大島渚監督で、主題歌をD・ボウイが日本語入りで歌ったことで、当時かなり話題になったと思います)。
イギリスの田舎で、定年退職後の日々をのんびり送っている初老の夫婦、ジムとヒルダ。ある日突然「戦争が始まる」というニュースがラジオで流れ、真面目なジムは、お役所から貰ってきた「戦争の際の手引き」というマニュアルに従って、シェルターを作ったり非常食を完備します。でも、奥さんヒルダには現実のほうが大事。「今日の夕飯なんにする?」とノンビリ構えています。このあたりの夫婦のスレ違いが、リアルで喜劇的でおかしい。
そうこうするうちに、緊急ニュースが流れ、本当に巨大な爆風が吹きました。まっ白い閃光のあとに静寂が。シェルターに(といっても部屋の隅に板を立てかけただけ)隠れた二人は無事でしたが、外は爆風でひどい有様です。水道も出ず、TVもつかず、息子の家に電話しても電話線は溶けている。外には誰も人が通りません。
おだやかで一見フツーの、よく晴れた日々がまた戻ります。しかし、段々と二人の体に異常が現れてくるのでした…。
ブリッグスは、細かいコマ割りで漫画のような絵本を描く事で知られていますが、この絵本でも、丹念に描き込まれた絵が愛らしく魅力的で、何度見ても飽きません。1冊描くのに1年半かかった、というのも頷けます。
セリフも秀逸で、老夫婦の淡々とした日常会話で、世界情勢をイギリスの一般市民がどうとらえているかが良く解ります。日本流に言うと「お上(おかみ)がなんとかしれくれるさ」…といったところでしょうか。核の威力の不穏な空気をうすうす感じてはいても、実際に立ち上がるまでには至らない。そういう「普通の人」が原子爆弾を浴びるとどうなるのか。あくまでも淡々とユーモラスに進む二人の生活を描写していることが、かえって悲惨でリアルなものとして胸に迫ります。
刊行された1982年当時は、まだ東西冷戦のさ中で、ソ連の脅威は西欧の人達にとって強大なものだったと思います。その「不安の象徴」として原爆投下が描かれていて、やや日本とは感覚が違う。日本にとって原爆は「過去最大の傷」であったのに、多くの欧米人にとっては「起こり得る大惨事」=未来の不安である、というところが。
ベルリンの壁は無くなったけど、ソ連は崩壊したけど、いまだ核廃絶は実現しません。
ブリッグスが渾身の力で描いたこの絵本は、言葉がやや難しいので「子供向け」ではないかも。でも、絵を見ているだけでも充分伝わるものがあります。私は今も、年に何度かはこの本をじっくり見返し、その度に深い感銘を受けています。
(ブリッグスのファンクラブもあるようです。英文ですが少しご紹介)
今回は「風が吹くとき(82年初版)」を御紹介します(現代は When the Wind Blows)。私は篠崎書林刊行のものを持っていますが、どうもいろんな出版社から出てるらしく、少しずつ内容も違うそう。マスコミでかなり評判になり、アニメ映画にもなりました(日本語訳は大島渚監督で、主題歌をD・ボウイが日本語入りで歌ったことで、当時かなり話題になったと思います)。
イギリスの田舎で、定年退職後の日々をのんびり送っている初老の夫婦、ジムとヒルダ。ある日突然「戦争が始まる」というニュースがラジオで流れ、真面目なジムは、お役所から貰ってきた「戦争の際の手引き」というマニュアルに従って、シェルターを作ったり非常食を完備します。でも、奥さんヒルダには現実のほうが大事。「今日の夕飯なんにする?」とノンビリ構えています。このあたりの夫婦のスレ違いが、リアルで喜劇的でおかしい。
そうこうするうちに、緊急ニュースが流れ、本当に巨大な爆風が吹きました。まっ白い閃光のあとに静寂が。シェルターに(といっても部屋の隅に板を立てかけただけ)隠れた二人は無事でしたが、外は爆風でひどい有様です。水道も出ず、TVもつかず、息子の家に電話しても電話線は溶けている。外には誰も人が通りません。
おだやかで一見フツーの、よく晴れた日々がまた戻ります。しかし、段々と二人の体に異常が現れてくるのでした…。
ブリッグスは、細かいコマ割りで漫画のような絵本を描く事で知られていますが、この絵本でも、丹念に描き込まれた絵が愛らしく魅力的で、何度見ても飽きません。1冊描くのに1年半かかった、というのも頷けます。
セリフも秀逸で、老夫婦の淡々とした日常会話で、世界情勢をイギリスの一般市民がどうとらえているかが良く解ります。日本流に言うと「お上(おかみ)がなんとかしれくれるさ」…といったところでしょうか。核の威力の不穏な空気をうすうす感じてはいても、実際に立ち上がるまでには至らない。そういう「普通の人」が原子爆弾を浴びるとどうなるのか。あくまでも淡々とユーモラスに進む二人の生活を描写していることが、かえって悲惨でリアルなものとして胸に迫ります。
刊行された1982年当時は、まだ東西冷戦のさ中で、ソ連の脅威は西欧の人達にとって強大なものだったと思います。その「不安の象徴」として原爆投下が描かれていて、やや日本とは感覚が違う。日本にとって原爆は「過去最大の傷」であったのに、多くの欧米人にとっては「起こり得る大惨事」=未来の不安である、というところが。
ベルリンの壁は無くなったけど、ソ連は崩壊したけど、いまだ核廃絶は実現しません。
ブリッグスが渾身の力で描いたこの絵本は、言葉がやや難しいので「子供向け」ではないかも。でも、絵を見ているだけでも充分伝わるものがあります。私は今も、年に何度かはこの本をじっくり見返し、その度に深い感銘を受けています。
(ブリッグスのファンクラブもあるようです。英文ですが少しご紹介)