平成26(受)547 損害賠償請求事件
平成28年1月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
台湾統治中の日本がXの父親を含む台湾の一民族の暮らしぶりを博覧会で見せ物として展示するという差別的な取扱いをしたという事実を摘示するテレビ番組が,Xの名誉を毀損するものではないとされた事例
今では考えられないような見世物が戦前にありました。台湾の先住民族の暮らしぶりを「人間動物園」として展示したことがありました。その展示出演した先住民族の娘をNHK特集で取り上げたことが、名誉棄損になるかということが論点です。
このような展示は、イギリスでもアメリカでも行われていました。記憶は定かではないですが、アイヌも国際博覧会で日本の少数民族として同様な展示に参加したことがあったと記憶しています。
今の道徳基準としては、ほめられたものではありませんが、当時としては諸外国でも一般にあったようです。
この点について、訴えた女性は「上告人は,本件番組において,被上告人の父親は日本によって台湾での植民地政 策の成功を示すために日英博覧会に連れて行かれ,「人間動物園」において,野蛮 で劣った植民地の人間であり,あたかも動物園の動物と同じであるかのような見せ 物として扱われ,展示されたこと及び被上告人は上記のように展示された者の娘で あることを放送したものといえる。」と、少数民族がまた差別されたとして訴えました。
ここで、裁判所の事実認定として「「人間動物園」という言葉は,研究者によって名付けられたものである」としています。現在では差別的な意味合いを持ちますが、当時としては学術用語であると考えたようです。ですが、同時に「西欧列強が野蛮で劣った植民地の人間 を文明化させていると宣伝するために行っていた「人間動物園」と呼ばれる見せ物 をまねて,被上告人の父親を含むパイワン族を日英博覧会に連れて行き,その暮ら しぶりを展示するという差別的な取扱いをしたという事実を摘示するものと理解す るのが通常であるといえる。」とも述べています。しかも台湾を植民地と裁判所は認定します。
私はこの事実認定の2点に疑問を持ちます。台湾は当時の植民地であるか?という点です。事の発端は、日本の漁民が難破して台湾に流れ着いたところ、漁民が惨殺されたことに対して、清に外交ルートを通じて抗議を入れました。ところが、清は台湾を化外の地であり管轄権外であるとしました。少なくとも、台湾は真の領土ではないと言ったのです。そこで、無政府状態にある土地を日本政府が治めたのにすぎません。したがって、安易に植民地という言葉を使うべきではないでしょう。
次に、民俗学の観点から日本の暮らしぶりを海外に紹介することは現在もやっていますし、外国もやっています。ことさらにこの少数民族の残忍さを煽りたてた展示であったかどうか、検証があったのでしょうか?
この点については、NHKがどこまで調べたかが問題になります。
その上で、裁判所は「被上告人の父親はパイ ワン族を代表して英国に行ったという被上告人の思いを踏みにじり,侮辱するとと もに,パイワン族を代表して英国に行った人の娘であるという被上告人がパイワン 族の中で受けていた社会的評価を低下させ,その名誉を侵害した。」と判断しました。
おそらく少数民族は、自分の民族を外国に知ってほしいという思いでイギリスまで行ったのでしょう。
それなのに、NHKの番組は差別行為に加担したと言う前提に立って娘にインタビューし流したと言うものです。父親の名誉を傷つけたというのが本心でしょう。
残念ながら、死者に対する名誉毀損は、その事実が客観的に虚偽のものである場合にのみ成立する(刑法230条2項)とありますので、この裁判は社会的評価の問題が絡みますから名誉棄損は成立しません。したがって、この判断は正しいものと私は思います。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 山浦善樹
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
ですが、法律論でいえばそうなんでしょうが、NHKに別な制裁を加えることはできなかったのでしょうか。かなりもやもや感が残る結果です。付帯意見がついてもいいものだと思いますけど。
ことさらに日本ディスカウントをするこの特集は、客観性に欠けると思います。
平成28年1月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
台湾統治中の日本がXの父親を含む台湾の一民族の暮らしぶりを博覧会で見せ物として展示するという差別的な取扱いをしたという事実を摘示するテレビ番組が,Xの名誉を毀損するものではないとされた事例
今では考えられないような見世物が戦前にありました。台湾の先住民族の暮らしぶりを「人間動物園」として展示したことがありました。その展示出演した先住民族の娘をNHK特集で取り上げたことが、名誉棄損になるかということが論点です。
このような展示は、イギリスでもアメリカでも行われていました。記憶は定かではないですが、アイヌも国際博覧会で日本の少数民族として同様な展示に参加したことがあったと記憶しています。
今の道徳基準としては、ほめられたものではありませんが、当時としては諸外国でも一般にあったようです。
この点について、訴えた女性は「上告人は,本件番組において,被上告人の父親は日本によって台湾での植民地政 策の成功を示すために日英博覧会に連れて行かれ,「人間動物園」において,野蛮 で劣った植民地の人間であり,あたかも動物園の動物と同じであるかのような見せ 物として扱われ,展示されたこと及び被上告人は上記のように展示された者の娘で あることを放送したものといえる。」と、少数民族がまた差別されたとして訴えました。
ここで、裁判所の事実認定として「「人間動物園」という言葉は,研究者によって名付けられたものである」としています。現在では差別的な意味合いを持ちますが、当時としては学術用語であると考えたようです。ですが、同時に「西欧列強が野蛮で劣った植民地の人間 を文明化させていると宣伝するために行っていた「人間動物園」と呼ばれる見せ物 をまねて,被上告人の父親を含むパイワン族を日英博覧会に連れて行き,その暮ら しぶりを展示するという差別的な取扱いをしたという事実を摘示するものと理解す るのが通常であるといえる。」とも述べています。しかも台湾を植民地と裁判所は認定します。
私はこの事実認定の2点に疑問を持ちます。台湾は当時の植民地であるか?という点です。事の発端は、日本の漁民が難破して台湾に流れ着いたところ、漁民が惨殺されたことに対して、清に外交ルートを通じて抗議を入れました。ところが、清は台湾を化外の地であり管轄権外であるとしました。少なくとも、台湾は真の領土ではないと言ったのです。そこで、無政府状態にある土地を日本政府が治めたのにすぎません。したがって、安易に植民地という言葉を使うべきではないでしょう。
次に、民俗学の観点から日本の暮らしぶりを海外に紹介することは現在もやっていますし、外国もやっています。ことさらにこの少数民族の残忍さを煽りたてた展示であったかどうか、検証があったのでしょうか?
この点については、NHKがどこまで調べたかが問題になります。
その上で、裁判所は「被上告人の父親はパイ ワン族を代表して英国に行ったという被上告人の思いを踏みにじり,侮辱するとと もに,パイワン族を代表して英国に行った人の娘であるという被上告人がパイワン 族の中で受けていた社会的評価を低下させ,その名誉を侵害した。」と判断しました。
おそらく少数民族は、自分の民族を外国に知ってほしいという思いでイギリスまで行ったのでしょう。
それなのに、NHKの番組は差別行為に加担したと言う前提に立って娘にインタビューし流したと言うものです。父親の名誉を傷つけたというのが本心でしょう。
残念ながら、死者に対する名誉毀損は、その事実が客観的に虚偽のものである場合にのみ成立する(刑法230条2項)とありますので、この裁判は社会的評価の問題が絡みますから名誉棄損は成立しません。したがって、この判断は正しいものと私は思います。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 山浦善樹
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
ですが、法律論でいえばそうなんでしょうが、NHKに別な制裁を加えることはできなかったのでしょうか。かなりもやもや感が残る結果です。付帯意見がついてもいいものだと思いますけど。
ことさらに日本ディスカウントをするこの特集は、客観性に欠けると思います。
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