安倍首相が、福島県相馬市の松川浦漁港を訪れ、試験操業で水揚げされたシラスやタコなどを試食する姿がテレビで流れた。「日本全国のみなさんに安全だと知ってもらいたい」といっても、この人が食べてみせたからって「風評被害」がなくなるわけはない。こうしたニュースが、同じ日に東電福一原発から前日の六五〇〇倍の高濃度の放射能汚染が計測された事実を、台風による豪雨のせいだから仕方がないという言い訳とも併せ、少しでも軽く見せる、隠そうとする工作にも、使われている。
広島市は原爆資料館に展示している被爆者の姿を再現したプラスチック製の「被爆再現人形」を、2016年3月ごろ撤去するという。原爆の炎に追われ、皮膚が垂れ下がった両腕を前方に突き出し、がれきの中をさまよう姿。私が子どもの頃見たのは、おそらく先代のろう人形のほうだと思う。もちろん怖かったと思う。だが、より怖かったのは、イヤホンガイドのバックにかかっていた「展覧会の絵」のBGMだ。資料館の耐震改修工事に合わせたリニューアルで、展示資料を遺品や写真などの「実物」中心とする考えだというが、振り返ってみて、子どもの頃に衝撃を受けることが間違っているとは、まったく思わない。『はだしのゲン』同様、じっさいに体験しなくても、展示で戦争の悲惨さが伝わるというのは、いいことではないか。
それにしても事実を、少しでも軽く見せる、隠そうとする工作は、全国的な風潮なのか。
全労働者の三分の一を占める「若年者(15~34歳)」。厚生労働省による働く若年者の雇用実態調査によれば、自身の収入のみで生活している者より、自身の収入に加え、親の収入など他の収入に頼っている者のほうが多いことがわかったという。正社員の若年者のぎりぎり半数は、自身の収入のみで暮らしているが、パート・アルバイトや契約社員など正社員以外で働く若年者では、3割にとどまるという。厳しい雇用環境が続いている。
構造的には、高度成長・バブル、社会保障度の高かった時代の親たちの蓄えが、社会に回収されてゆく。日本が世界でも希な「貯金の多い国」という認識は、これから成り立たなくなっていくことだろう。
そして、就職活動に失敗して自殺する若者が増えており、昨年、その層の自殺者数は、六年前に比べ三倍近くに増加しているという。
就活者の97%が正社員を希望。一方で「定年まで勤める」としたのは20%で、約四割があらかじめ転職や独立を考えているというデータもある。日本の会社、労働のあり方が変わってきたことも反映しているだろう。将来についてアクティブに考える者なら、「生涯雇用」の縛りを解いて、自由と機会に恵まれた「能力のある者が力を発揮できる社会」でありたいと思ってきたはずだが、彼ら「若年者」が、いちど競争から弾き飛ばされたら這い上がれないのではないかと、極めて強い不安を抱いている現状を反映している。
都合の悪いことを隠し、責任を取らない。疑念ばかりが膨らみ偏狭さに満ちたこの世の中を見ていれば、夢も希望もないのは、確かだろう。
広島市は原爆資料館に展示している被爆者の姿を再現したプラスチック製の「被爆再現人形」を、2016年3月ごろ撤去するという。原爆の炎に追われ、皮膚が垂れ下がった両腕を前方に突き出し、がれきの中をさまよう姿。私が子どもの頃見たのは、おそらく先代のろう人形のほうだと思う。もちろん怖かったと思う。だが、より怖かったのは、イヤホンガイドのバックにかかっていた「展覧会の絵」のBGMだ。資料館の耐震改修工事に合わせたリニューアルで、展示資料を遺品や写真などの「実物」中心とする考えだというが、振り返ってみて、子どもの頃に衝撃を受けることが間違っているとは、まったく思わない。『はだしのゲン』同様、じっさいに体験しなくても、展示で戦争の悲惨さが伝わるというのは、いいことではないか。
それにしても事実を、少しでも軽く見せる、隠そうとする工作は、全国的な風潮なのか。
全労働者の三分の一を占める「若年者(15~34歳)」。厚生労働省による働く若年者の雇用実態調査によれば、自身の収入のみで生活している者より、自身の収入に加え、親の収入など他の収入に頼っている者のほうが多いことがわかったという。正社員の若年者のぎりぎり半数は、自身の収入のみで暮らしているが、パート・アルバイトや契約社員など正社員以外で働く若年者では、3割にとどまるという。厳しい雇用環境が続いている。
構造的には、高度成長・バブル、社会保障度の高かった時代の親たちの蓄えが、社会に回収されてゆく。日本が世界でも希な「貯金の多い国」という認識は、これから成り立たなくなっていくことだろう。
そして、就職活動に失敗して自殺する若者が増えており、昨年、その層の自殺者数は、六年前に比べ三倍近くに増加しているという。
就活者の97%が正社員を希望。一方で「定年まで勤める」としたのは20%で、約四割があらかじめ転職や独立を考えているというデータもある。日本の会社、労働のあり方が変わってきたことも反映しているだろう。将来についてアクティブに考える者なら、「生涯雇用」の縛りを解いて、自由と機会に恵まれた「能力のある者が力を発揮できる社会」でありたいと思ってきたはずだが、彼ら「若年者」が、いちど競争から弾き飛ばされたら這い上がれないのではないかと、極めて強い不安を抱いている現状を反映している。
都合の悪いことを隠し、責任を取らない。疑念ばかりが膨らみ偏狭さに満ちたこの世の中を見ていれば、夢も希望もないのは、確かだろう。