一般社団法人 日本劇作家協会は、本日、「高市総務大臣の「電波停止」発言に際し 公権力のメディアへの介入・圧力に抗議する緊急アピール」を発表した。
十年間に及んだ私の劇作家協会での会長の任期はまもなく終了。今回は言論表現委員会の草稿をまとめるのを手伝っただけだが、実質的には、最後の仕事ということになるのだろうか。
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高市総務大臣の「電波停止」発言に際し 公権力のメディアへの介入・圧力に抗議する緊急アピール
高市早苗総務大臣は、国会に於いて、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと政府・大臣が 判断した場合、放送法第4条違反を理由に、電波法第76条に基づいて電波停止を命じる可能性を明言しました。
言論・表現・報道の自由は、様々な独裁国家での圧政への抵抗、言論弾圧への批判、戦時下でのメディア規制や大本営発表の危険性という歴史の中で確立されてきたものです。
2007年の国会では、内閣提出の放送法改定案に新たな行政処分規定が盛り込まれましたが、公権力による介入が表現の自由や知る権利を損なうとの指摘で削除され、放送界が共同で設置した第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」による「効果的な不断の取り組みに期待する」との附帯決議がされています。当時の菅義偉総務大臣も、あくまでBPOの取り組みを主体とする旨を答弁しています。
昨年高市大臣は「政治的に公平でないこと」を理由にNHKへの「厳重注意」を行いました。それを受け11月にBPOが公表した意見書は、NHKに対する批判と共に、政府・与党が放送法を盾に直接的にメディア規制をおこなうことを厳しく批判しました。
政治家自身が政治的に公平・中立な立場に立つことは本来的にありえないことで、政府・公権力が特定の立場から放送に介入するのを防ぐために、放送法では「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」との規定を冒頭に掲げています。
また時の政府や政策への問題指摘は様々なメディアが行うべき責務であり、そうした指摘や批判に対し最大の利害関係者である政権自身が停波により手段を奪うことなど、あってはなりません。
こうしたことから、放送法第4条はその広い解釈可能性の故に法規範たり得ず、放送局が自らを律するための倫理規範であり、少なくとも同法第174条による業務停止や電波法第76条による電波停止の根拠にはなり得ないとするのが、法学的な通説です。またそれが、憲法に適合する唯一の合理的な法理解でしょう。
憲法21条では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を最大限保障しています。その根幹には、人類史の中で繰り返された為政者による言論統制とその帰結への深い反省から、情報を制約するのでなく、闊達な表現活動や報道による社会の安全保障、多様な情報の自由な流通の中から正解を選びとって行く人々の力に信頼を置こうという、強い決意があります。
しかしながら、今回の発言は、メディアに対する規制を殊更に強調し、表現の自由を保障する現行憲法を軽視するものです。現憲法にある「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と言い換え、それを害すると判断された場合には表現の自由を制約できるとした自民党改憲案に極めて符合するという点において、高市発言には現政権の恣意性が表れており、問題であると言わざるを得ません。
私たちは、表現者として、憲法の根幹思想と相反するように見えるこうした政府の姿勢に強い危惧を抱きます。
高市氏には自身の発言を撤回し、報道・メディアへの公権力の政治的立場からの介入を認めず、あらゆる表現者の自主自律を尊重する発言を国会で改めてしていただきたい。そうした自省と自覚がない場合は、 通信放送行政を担う職責にはふさわしくないため、大臣の辞任を求めます。
2016年2月26日
一般社団法人 日本劇作家協会
http://www.jpwa.org/main/statement/appeal20160226
十年間に及んだ私の劇作家協会での会長の任期はまもなく終了。今回は言論表現委員会の草稿をまとめるのを手伝っただけだが、実質的には、最後の仕事ということになるのだろうか。
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高市総務大臣の「電波停止」発言に際し 公権力のメディアへの介入・圧力に抗議する緊急アピール
高市早苗総務大臣は、国会に於いて、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと政府・大臣が 判断した場合、放送法第4条違反を理由に、電波法第76条に基づいて電波停止を命じる可能性を明言しました。
言論・表現・報道の自由は、様々な独裁国家での圧政への抵抗、言論弾圧への批判、戦時下でのメディア規制や大本営発表の危険性という歴史の中で確立されてきたものです。
2007年の国会では、内閣提出の放送法改定案に新たな行政処分規定が盛り込まれましたが、公権力による介入が表現の自由や知る権利を損なうとの指摘で削除され、放送界が共同で設置した第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」による「効果的な不断の取り組みに期待する」との附帯決議がされています。当時の菅義偉総務大臣も、あくまでBPOの取り組みを主体とする旨を答弁しています。
昨年高市大臣は「政治的に公平でないこと」を理由にNHKへの「厳重注意」を行いました。それを受け11月にBPOが公表した意見書は、NHKに対する批判と共に、政府・与党が放送法を盾に直接的にメディア規制をおこなうことを厳しく批判しました。
政治家自身が政治的に公平・中立な立場に立つことは本来的にありえないことで、政府・公権力が特定の立場から放送に介入するのを防ぐために、放送法では「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」との規定を冒頭に掲げています。
また時の政府や政策への問題指摘は様々なメディアが行うべき責務であり、そうした指摘や批判に対し最大の利害関係者である政権自身が停波により手段を奪うことなど、あってはなりません。
こうしたことから、放送法第4条はその広い解釈可能性の故に法規範たり得ず、放送局が自らを律するための倫理規範であり、少なくとも同法第174条による業務停止や電波法第76条による電波停止の根拠にはなり得ないとするのが、法学的な通説です。またそれが、憲法に適合する唯一の合理的な法理解でしょう。
憲法21条では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を最大限保障しています。その根幹には、人類史の中で繰り返された為政者による言論統制とその帰結への深い反省から、情報を制約するのでなく、闊達な表現活動や報道による社会の安全保障、多様な情報の自由な流通の中から正解を選びとって行く人々の力に信頼を置こうという、強い決意があります。
しかしながら、今回の発言は、メディアに対する規制を殊更に強調し、表現の自由を保障する現行憲法を軽視するものです。現憲法にある「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と言い換え、それを害すると判断された場合には表現の自由を制約できるとした自民党改憲案に極めて符合するという点において、高市発言には現政権の恣意性が表れており、問題であると言わざるを得ません。
私たちは、表現者として、憲法の根幹思想と相反するように見えるこうした政府の姿勢に強い危惧を抱きます。
高市氏には自身の発言を撤回し、報道・メディアへの公権力の政治的立場からの介入を認めず、あらゆる表現者の自主自律を尊重する発言を国会で改めてしていただきたい。そうした自省と自覚がない場合は、 通信放送行政を担う職責にはふさわしくないため、大臣の辞任を求めます。
2016年2月26日
一般社団法人 日本劇作家協会
http://www.jpwa.org/main/statement/appeal20160226