結城座さんの許しを得て、『野鴨中毒』パンフレットに記した、構想覚え書きを転載します。
……………………
もう十年以上前になるだろうか。
私がニューヨークを訪れていた際、拙作『天皇と接吻』(1999)にも出演しているニューヨークの演出家・俳優・翻訳家であるオガワ・アヤが、「『オフィーリア』というタイトルで、自分流にアレンジした『ハムレット』のリハーサルをしているから、観に来て」というので、覗きに行ったことがある。
稽古内容は、その日ほぼ一日、オフィーリアの葬列の場面のみを繰り返し続けるというものだった。
私は「アヤ、お前は天才だ! オフィーリアの葬列だけで『ハムレット』を描こうとするとは! 斬新だ!」と絶賛した。
アヤはきょとんとして、「サカテさん違うよ、今日の稽古がたまたま葬列のシーンだけだったの」。
「じゃあ、俺が勝手にオフィーリアの葬列だけで描く新解釈バージョンの『ハムレット』をやってもいいか?」と言うと、「だって、それは私のアイデアじゃないもん」ということだった。
素晴らしい構想だと思った。
しかし残念ながらその後、『ハムレット』の演出依頼は来なかったので、私のその企画は、なかなか日の目を見なかった。
やがて、〈現代能楽集イプセン〉と銘打ったシリーズで劇を作っていたとき、イプセン作『野鴨』を、娘役ヘドヴィクの葬列だけで描くという構想に、このアイデアは結実することになった。
題して、『野鴨中毒』。
もともと『野鴨』は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の変奏曲だという説もある。両者の馴染みは、悪くない。
『野鴨』がチェーホフ作『かもめ』に影響を与えていることも広く知られている。オフィーリア ~ ジュリエット ~ ヘドヴィク ~ ニーナという繋がり方も、興味深い。
「近代劇」以降の演劇は、行動する主人公を中心に現在進行形で物語が進んでいくことが多いが、日本の伝統劇である能の場合、主人公である「シテ」は場所に憑く亡霊であり、旅人である「ワキ」がその話を聞いているうちに、過去の再現としての物語が現前してくるという仕組みである。
棺桶をおさめる幻の墓所を求めて森の中を彷徨う、自殺した娘ヘドヴィクの葬列という「場」。
そこから物語を振り返る『野鴨中毒』は、能の〈複式夢幻能〉の形式を踏まえることになる。
伝統的な人形劇の、人形と遣い手の分離による批評性が、イプセンの描いた二世紀前の北欧の人間たちの営みを、深く鋭く照射する。
そして、森=野鴨=自然を体現する者と繋がる役割を、ベトナム俳優陣が演じ、人間たちを描く人形劇と、対峙する。
このようなエキサイティングな創造の場に立ち会えることに、心から感謝する。
……………………
『野鴨中毒』公演詳細は以下の通り
http://www.youkiza.jp/sp/vietnam/
江戸糸あやつり人形結城座×ベトナム青年劇場
日越国際協働制作『野鴨中毒』
結城座×ベトナム青年劇場
日越国際協働制作『野鴨中毒』
原作:イプセン
脚本・演出:坂手洋二
人形美術・衣裳:寺門孝之
音楽・生演奏:太田惠資
出演:十二代目結城孫三郎、レ・カイン(ベトナム青年劇場) ほか
舞台美術:島次郎
照明:齋藤茂男
音響:島猛
舞台監督:森下紀彦
<ベトナム青年劇場スタッフ>
Dang Minh Tuan(舞台美術・舞台監督)
Pham Thanh Binh(照明)
Nguyen Anh Tuan(音響)
国境や文化の境界を越えて、結城座+坂手洋二がイプセン最高傑作『野鴨』に挑む!
日本の古典文化のひとつ「江戸糸あやつり人形」を継承する結城座と、ベトナム青年劇場との国際協働制作による人形芝居。12代目結城孫三郎はじめ人形遣いたちが寺門孝之デザインの人形をあやつり、ベトナムの国民的大女優であるレ・カインと競演します。演出に現代演劇の旗手・燐光群主宰の坂手洋二を迎え、アジアの芸術力を結集し、イプセンの戯曲『野鴨』を再構築していきます。様々な要素が融合した今まで見たこともない舞台にご期待ください。
開催日:2016年3月16日(水)~21日(月・祝)
3月16日(水)19:00開演
3月17日(木)19:00開演★
3月18日(金)19:00開演
3月19日(土)14:00開演
3月20日(日)14:00開演★
3月21日(月・祝)14:00開演
※開場は開演の30分前です。
※20日(日)14:00開演の回の音楽は録音を使用します。
★アフタートークあり
17日(木) 坂手洋二 × 太田惠資(ヴァイオリン)× スペシャル・ゲスト 巻上公一(超歌唱家)
20日(日) 坂手洋二 × レ・カイン × グエン・タイン・ビン × 結城孫三郎
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1
【アクセス】
◆JR山手線・埼京線、東武東上線、西武池袋線、東京メトロ有楽町線・丸の内線・副都心線「池袋駅」西口から徒歩2分
※池袋駅地下2b出口と直結
チケット
料金(全席指定・税込)
一般5,500円
U-25(25歳以下)2,500円(当日要証明書(年齢のわかるもの)提示)
Vチケット(日本在住のベトナム人の方)2,500円(当日要証明書(ベトナム国籍がわかるもの)提示)
※未就学児はご入場いただけません。
チケット取扱い
結城座
Tel.042-322-9750(平日10:00~18:00)
結城座オンラインチケット
http://www.youkiza.jp/
チケットぴあ
Tel.0570-02-9999(Pコード448-007) http://t.pia.jp/
ローソンチケット
Tel.0570-000-407(オペレーター10:00~20:00) http://l-tike.com/
東京芸術劇場ボックスオフィス
Tel.0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00) http://www.geigeki.jp/t/
チケット発売日
2016年1月15日(金)
主催・お問い合わせ
公益財団法人江戸糸あやつり人形結城座 Tel.042-322-9750 http://www.youkiza.jp/
託児サービスのご案内
「東京芸術劇場託児施設 だっこルーム」
東京芸術劇場での公演をご鑑賞の際、お子様をお預かりします。
【お預かり対象】生後3ヵ月から小学校入学前のお子様(定員あり)
【お預かり時間】9:00~22:00(劇場休館日は除く)
【お申込み方法】
お電話での事前予約(利用日の運営事務所1営業日前正午まで※)
※月曜日のお預かりは前週金曜日の正午まで、前週金曜日が祝日の場合は木曜日正午までとなります。
【料金】
開演30分前から終演30分後まで
~1歳児:2,560円(税込)
2~6歳児(就学前):2,160円(税込)
【お申込み・お問合せ】
小学館集英社プロダクションTel.03-3981-7003(平日10:00~17:00)
……………………
もう十年以上前になるだろうか。
私がニューヨークを訪れていた際、拙作『天皇と接吻』(1999)にも出演しているニューヨークの演出家・俳優・翻訳家であるオガワ・アヤが、「『オフィーリア』というタイトルで、自分流にアレンジした『ハムレット』のリハーサルをしているから、観に来て」というので、覗きに行ったことがある。
稽古内容は、その日ほぼ一日、オフィーリアの葬列の場面のみを繰り返し続けるというものだった。
私は「アヤ、お前は天才だ! オフィーリアの葬列だけで『ハムレット』を描こうとするとは! 斬新だ!」と絶賛した。
アヤはきょとんとして、「サカテさん違うよ、今日の稽古がたまたま葬列のシーンだけだったの」。
「じゃあ、俺が勝手にオフィーリアの葬列だけで描く新解釈バージョンの『ハムレット』をやってもいいか?」と言うと、「だって、それは私のアイデアじゃないもん」ということだった。
素晴らしい構想だと思った。
しかし残念ながらその後、『ハムレット』の演出依頼は来なかったので、私のその企画は、なかなか日の目を見なかった。
やがて、〈現代能楽集イプセン〉と銘打ったシリーズで劇を作っていたとき、イプセン作『野鴨』を、娘役ヘドヴィクの葬列だけで描くという構想に、このアイデアは結実することになった。
題して、『野鴨中毒』。
もともと『野鴨』は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の変奏曲だという説もある。両者の馴染みは、悪くない。
『野鴨』がチェーホフ作『かもめ』に影響を与えていることも広く知られている。オフィーリア ~ ジュリエット ~ ヘドヴィク ~ ニーナという繋がり方も、興味深い。
「近代劇」以降の演劇は、行動する主人公を中心に現在進行形で物語が進んでいくことが多いが、日本の伝統劇である能の場合、主人公である「シテ」は場所に憑く亡霊であり、旅人である「ワキ」がその話を聞いているうちに、過去の再現としての物語が現前してくるという仕組みである。
棺桶をおさめる幻の墓所を求めて森の中を彷徨う、自殺した娘ヘドヴィクの葬列という「場」。
そこから物語を振り返る『野鴨中毒』は、能の〈複式夢幻能〉の形式を踏まえることになる。
伝統的な人形劇の、人形と遣い手の分離による批評性が、イプセンの描いた二世紀前の北欧の人間たちの営みを、深く鋭く照射する。
そして、森=野鴨=自然を体現する者と繋がる役割を、ベトナム俳優陣が演じ、人間たちを描く人形劇と、対峙する。
このようなエキサイティングな創造の場に立ち会えることに、心から感謝する。
……………………
『野鴨中毒』公演詳細は以下の通り
http://www.youkiza.jp/sp/vietnam/
江戸糸あやつり人形結城座×ベトナム青年劇場
日越国際協働制作『野鴨中毒』
結城座×ベトナム青年劇場
日越国際協働制作『野鴨中毒』
原作:イプセン
脚本・演出:坂手洋二
人形美術・衣裳:寺門孝之
音楽・生演奏:太田惠資
出演:十二代目結城孫三郎、レ・カイン(ベトナム青年劇場) ほか
舞台美術:島次郎
照明:齋藤茂男
音響:島猛
舞台監督:森下紀彦
<ベトナム青年劇場スタッフ>
Dang Minh Tuan(舞台美術・舞台監督)
Pham Thanh Binh(照明)
Nguyen Anh Tuan(音響)
国境や文化の境界を越えて、結城座+坂手洋二がイプセン最高傑作『野鴨』に挑む!
日本の古典文化のひとつ「江戸糸あやつり人形」を継承する結城座と、ベトナム青年劇場との国際協働制作による人形芝居。12代目結城孫三郎はじめ人形遣いたちが寺門孝之デザインの人形をあやつり、ベトナムの国民的大女優であるレ・カインと競演します。演出に現代演劇の旗手・燐光群主宰の坂手洋二を迎え、アジアの芸術力を結集し、イプセンの戯曲『野鴨』を再構築していきます。様々な要素が融合した今まで見たこともない舞台にご期待ください。
開催日:2016年3月16日(水)~21日(月・祝)
3月16日(水)19:00開演
3月17日(木)19:00開演★
3月18日(金)19:00開演
3月19日(土)14:00開演
3月20日(日)14:00開演★
3月21日(月・祝)14:00開演
※開場は開演の30分前です。
※20日(日)14:00開演の回の音楽は録音を使用します。
★アフタートークあり
17日(木) 坂手洋二 × 太田惠資(ヴァイオリン)× スペシャル・ゲスト 巻上公一(超歌唱家)
20日(日) 坂手洋二 × レ・カイン × グエン・タイン・ビン × 結城孫三郎
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1
【アクセス】
◆JR山手線・埼京線、東武東上線、西武池袋線、東京メトロ有楽町線・丸の内線・副都心線「池袋駅」西口から徒歩2分
※池袋駅地下2b出口と直結
チケット
料金(全席指定・税込)
一般5,500円
U-25(25歳以下)2,500円(当日要証明書(年齢のわかるもの)提示)
Vチケット(日本在住のベトナム人の方)2,500円(当日要証明書(ベトナム国籍がわかるもの)提示)
※未就学児はご入場いただけません。
チケット取扱い
結城座
Tel.042-322-9750(平日10:00~18:00)
結城座オンラインチケット
http://www.youkiza.jp/
チケットぴあ
Tel.0570-02-9999(Pコード448-007) http://t.pia.jp/
ローソンチケット
Tel.0570-000-407(オペレーター10:00~20:00) http://l-tike.com/
東京芸術劇場ボックスオフィス
Tel.0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00) http://www.geigeki.jp/t/
チケット発売日
2016年1月15日(金)
主催・お問い合わせ
公益財団法人江戸糸あやつり人形結城座 Tel.042-322-9750 http://www.youkiza.jp/
託児サービスのご案内
「東京芸術劇場託児施設 だっこルーム」
東京芸術劇場での公演をご鑑賞の際、お子様をお預かりします。
【お預かり対象】生後3ヵ月から小学校入学前のお子様(定員あり)
【お預かり時間】9:00~22:00(劇場休館日は除く)
【お申込み方法】
お電話での事前予約(利用日の運営事務所1営業日前正午まで※)
※月曜日のお預かりは前週金曜日の正午まで、前週金曜日が祝日の場合は木曜日正午までとなります。
【料金】
開演30分前から終演30分後まで
~1歳児:2,560円(税込)
2~6歳児(就学前):2,160円(税込)
【お申込み・お問合せ】
小学館集英社プロダクションTel.03-3981-7003(平日10:00~17:00)