燐光群『バートルビーズ』のモデルとなった、高野病院。福島第一原発から22キロに位置する。原発事故直後にも避難せず、現在まで患者の治療を続けている。
この病院を経営する法人は、隣接する福島県広野町唯一の特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」も経営していた。
「花ぶさ苑」は震災の前年4月に開所、当時の高野英男院長が町から依頼され、地域のために始めたという。この施設は避難指示後にいったん休業したが、12年4月に震災前の半数以下で再開。しかし住民は戻らない。経営難に直面するが、悪条件下、民間だけでは維持できず、苦難を重ねていた。
高野病院の高野己保理事長は経営を安定させるため40床の定員を増床すべく町に相談したが援助は受けられず、赤字が続いていた。
東京新聞によると、理事長は「病院や個人資産から約1億円を穴埋めしたが、限界だった」という。
自治体の支援がなければ継続不能というとき、町は手を貸さなかった。富岡町では震災で休止した病院の院長の医療法人に町が施設を無料貸与した例もあるというのに。
結局「花ぶさ苑」は町へ譲渡され、4月から大手民間業者が町から運営を委託される形で存続するという。
「事業をやめれば、国や町の補助金3億円超の返還が必要になる。高野さんは病院との共倒れを避けるため、自らの身を削りながら、苦渋の決断で町への事業譲渡を決めた。建物は町に無償で譲り、土地や備品は売却したが、開所時の借入金など数千万円の負担が残った」というのだ。
聖火リレーをJビレッジから始めるとか、経済施設や学校を原発近くに建てるとか、現実を記憶の中に押し込めようとして「伝承館」を建てたりとか、そんなことよりも、弱い立場の人たちを守る医療・福祉を、それを支える民間の努力をこそ、まず支えるべきではないのか。
人間の姿が見えていない、「安全」を喧伝しカネと権威に踊らされる人たちは、目に見える「復興」を看板代わりに求めるのかもしれない。だが、そこには人の生活があり、命を繋ぎ支える暮らしがあることを、忘れてはならない。
東京新聞の片山夏子さんの記事で写真つきで読めます。
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https://www.tokyo-np.co.jp/article/94788
「バートルビーズ」戯曲は、彩流社から出版されています。
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http://rinkogun.com/Yoji_Sakate/entori/2017/11/5_Bartlebies.html
写真は、高野病院。七年くらい前か。