燐光群『沖縄戦と琉球泡盛』パンフレットのごあいさつ文
沖縄で売られている泡盛は、二合瓶か三合瓶が多い。三合といっても600mlで、まだ泡盛のための専用の瓶が作られていなかった時代、ビール瓶に泡盛を詰めて販売していた時代の名残りだという。ビール瓶が633mlだから、その誤差の33mlがなぜ生じたのか定かではないが、まあ沖縄のテーゲーさによるものだろう。「消えた33mlは、神様にお裾分けしているのさー」という意見もある。
三合瓶を主軸にしていることに誇りを持つ八重山の酒造者もいらしたが、私は二合瓶が、かわいらしくてしようがない。今回の舞台に登場する酒棚も、最上段はずらり全部二合瓶にしてもらった。
四半世紀くらい前、沖縄で二合瓶が印象的な「泡盛バー」に入った記憶がある。名護だったと思う。ひょっとしたらコザか。那覇ではなかった。たぶん誰かに紹介されたのだろう。
そんなに広くはない、薄暗い店の四方の壁が全部棚で、そこに二合か三合瓶の泡盛が、隙間なくびっしり並んでいた。沖縄はどの市町村も必ず泡盛を作っていて、それぞれの銘柄がある。同じ蔵でもアルコール度数の違いや古酒の年数などで品名を変えたりしている。当時でも四百何十種類あると聞いた。
壁びっしりに並んだほとんどが、丸首の二合瓶三合瓶。そして瓶の首には、黄色とピンクと緑、いずれかのビニールテープが巻いてあった。値段ごとに色が違う。こまかく分けると会計のとき面倒だから黄色とピンクと緑、三種類だけの値段設定にしてある、ということだった。
その後何回か沖縄に行って、その店にもう一度行きたくて探そうとするのだが、思い出せない。人に尋ねても、見つからない。「泡盛バー」ありますか、と尋ねるのだが、教えてもらって訪ねてみると、違う店ばかりである。
俺は本当にあの店に行ったのかな。夢でも見たんじゃないか、そんな気がしてくる。たぶん永久に見つけられないという気がする。
『沖縄戦と琉球泡盛』は、『沖縄戦と琉球泡盛』(明石書店)の著者・上野敏彦さんとの出会いなくしては、なかった。
上野さんとの出会いは、「第五福竜丸展示館」である。何年か前の正月、展示館の前の藪の中から、ぬっと現れたときの印象。
飾らず、人と接するときの、心の豊かさ。そして、端正で理知的で、不屈の魂を抱くジャーナリストの矜持。酒と共にあるときの、粋。どれもが上野さんである。
私自身も泡盛の取材をしている。酒造所の半分以上は、訪ねた。
なのでこの劇は、泡盛と「沖縄の戦争」について、ジャーナリズムと演劇が共に取り組んだ作品であるともいえるだろう。
私自身も泡盛の取材をしている。酒造所の半分以上は、訪ねた。
なのでこの劇は、泡盛と「沖縄の戦争」について、ジャーナリズムと演劇が共に取り組んだ作品であるともいえるだろう。
「沖縄の戦争」といえば、第二次世界大戦の過去が想起されるが、「新たな戦争」の脅威が増している現実にこそ、向き合わねばならない。
沖縄といえば、八十年にわたろうとする米軍基地駐留の問題が指摘されてきたが、自衛隊基地の配備も拡大している。八年前、『天使も嘘をつく』で、南西諸島への自衛隊配備拡大について描いたが、当時はSF扱いする人もいた。だが八年経ってみれば、戦後七十余年のあいだ宮古島のレーダーしかなかった自衛隊基地が、現在、宮古島、石垣島にまで、配備されている。それらの島々には米軍基地もなかった。基地のない島の歴史が、終わってしまったのである。
自衛隊基地だけではない。沖縄・南西諸島では、この11月1日からの〈キーン・ソード〉を皮切りに、日米合同訓練が行われている。ウクライナがロシアを攻撃するために供された「ハイマース」も導入される。これは現実である。
訓練されているのは「日米の作戦」。「自衛隊は後方支援」という言い方は、もはや通用しない。
台湾有事の際、米軍がミサイル部隊を南西諸島とフィリピンに展開させ、軍事拠点を設ける方針であることが、マスコミにも取り上げられている。12月中に共同作戦計画を策定するという。
南西諸島への自衛隊配備段階でさえ、当初は「ミサイルは持ち込まない」と言っていたが結局は持ち込んだ。このミサイルも「日米合同」の方針のもとに計画されていたということは明らかだ。
日本には平和憲法がある。戦争を放棄したはずだ。その日本の国土である南西諸島からアメリカがミサイルを撃つことを、日本政府は容認するのか。憲法違反どころの騒ぎではない。明確な日本の「参戦」宣言だ。なぜみんな黙っているのか。
沖縄は、第二次世界大戦で、二百年三百年物も含んだ古酒を、全て破壊された。何十年も貯蔵し熟成させる古酒を残すには、戦争で壊されないようにしなくてはならない。「古酒を育てる」ことが、反戦に繋がる。
八重山諸島のある小さな酒蔵は、将来に向けて、古酒を保存するための新たな倉庫とタンクを、現在の蔵の裏に、新たに設けた。
配備されるミサイル発射装置車は、島の中を自由に移動できるタイプのものだ。「有事」があったら、そのミサイルを狙う者たちは、島じゅうを攻撃するだろう。
もしも攻撃されたら、という時のことについて、その酒蔵の人をはじめ島の酒造者たちは誰もが、「そのときは仕方ないねー」と、言う。
「古酒を守る」「命を守る」ことは、被害を受ける当事者だけの問題ではない。
私たちの問題なのである。
※ ※ ※
東京・吉祥寺シアター公演は、あす12月8日(日)までです。
あと二日間。
本日は昼夜二回公演です。
12月7日(土) 14:00/19:00開演
12月8日(日) 14:00開演
○岡山公演
12月13日〜15日
岡山芸術創造劇場 ハレノワ 小劇場
○吹田公演
12月21日・22日
吹田市文化会館 メイシアター 中ホール
写真、徳永達哉、吉村直、青山友香、南谷朝子、円城寺あや、川中健次郎、猪熊恒和、大西孝洋、鴨川てんし、西村順子、尾形可耶子
撮影・姫田蘭。