新宿三丁目のシャンソン・バー『る・たん・あじる』に行ってきた。
実は先日、急に年来の友人が亡くなった。ただ最近、疎遠にしていたので消息がつかめない。弔いにも行けなかった。香華を手向けることもできない。そこで行きつけだったという新宿ゴールデン街の店で友人を偲んで飲もうかと思ったが、どうも開店が8時過ぎ頃らしい。これでは、早めに飲み始めて早めに切り上げるというオカブの行動規範に合わない。それに、今回は蒲田でのコンサートで手伝いに繰り出したかーたんと待ち合わせて、二人で行こうと思っていたのに時間が遅すぎる。そこで新宿は新宿でも3丁目の前から気になっていたこの店で呑むことにしたのである。
この店はライヴをやるのは毎週木曜でその他はバー・タイム。それでよろしい。今回は音楽を聴きに来たのではなく、友達を偲びに来たのだから。
ただし、話題はもちろんママさんとは面識のない友人のことではなく、ママさんが好きなパリのつれずれのこと。シャンソニエのラパン・アジルや治安のこと、美術館のこと、あるいは国内のシャンソニエやシャンソン歌手のことなどを取り留めもなく話す。
アブサンの杯を重ねるごとに興に乗ってくる。
オカブは7回ほどパリに行っている。ママさんとは話が弾むわけだ。かーたんはパリ行きなし。だからずっと押し黙っている。気を遣うのが煩わしいので適当な時間に店を出る。早めに切り上げるという主義に従ったわけだ。しかし、この店は明朗会計でいい店。また来よう。
友人はパリを訪れたことはないがフランス文学にはとてつもない造詣をもっていた。オカブがシャンソンを伝授されたのはこの友人からだったし、おまけに底抜けの酒豪ときている。今晩は、手向けに酒を飲んだことで喜んでくれたことであろう。
一歩出た夜の街は年の暮れの様相を呈していた。
木枯らしや逝ける友へのウィスキー 素閑