ウルリッヒ・ヘッセ・リヒテンベルガー『ブンデスリーガ』  その2

2014年05月03日 | スポーツ
 ウルリッヒ・ヘッセ・リヒテンベルガー『ブンデスリーガ』を読む。

 前回(→こちら)は、この本によると今では2006年ワールドカップで「Willkommen zu Fussballland」(サッカーの国にようこそ)なんて看板を出していたドイツだが、サッカーがイングランドから上陸した当初は、

 「サッカーなんてやってるヤツはクズ」

 とばかりに、むちゃくちゃに迫害されていたという話をした。

 とにかく当時のドイツのスポーツ界では、サッカーといえば野蛮なヨソ者の競技であり、「英国病」などと悪口を言われる。

 ドイツ人の「嫌ごと言い」は、とにかくとめどがなく、

 「人は軽蔑を表すのに、足蹴にすることがある。しつけの悪い犬は足で蹴るものだ。大事なボールを足で蹴るなんて最低ではないか。サッカーってのは、そういう軽蔑すべきものなのだ」

 とか言われていたそうである。

 そういえば子供の時、マンガの中で大空翼君が、

 「ボールはともだちさ!」

 の名セリフを残したとき、クラスメートの連中が

 「ともだちを足で蹴るなんてヒデーよな」

 なんて、したり顔でつっこんでいるのをよく聞いたものだが、ドイツ人も同じこといってたわけだ。言葉や文化は違っても、「定番のツッコミ」というのはどこの国でも変わらないらしいところがおもしろい。
 
 さらには、「あのボールを追う腰を曲げた姿勢がかっこわるい」とか、「足を使う無骨者」とか、「イングランドのどうでもいいスポーツ」とか、果ては

 「不快」
 「馬鹿げた」
 「醜い」
 「邪道」

 などなど、もう言いたい放題。どんだけサッカーのこと嫌いやねんドイツ人!

 こんな、ノンスタイル井上君並に罵倒を浴びせられていたドイツサッカーだが、後の隆盛ぶりについてはいうまでもあるまい。

 今ではようこそサッカーの国。人の心なんて、わからないものだ。

 こういう事例を見ると、人が今「こんなものはダメだ」なんていうときは、案外根拠なんてないってことがよくわかる。

 女に責任ある仕事は無理とか、有色人種は能力的に劣っているとか、日本人は劣化してるとか、マンガを読むとバカになるとか、ゲーム脳とか、インターネットなど本当のコミュニケーションではないとか。

 結局のところ、人というのは「自分が理解できないもの」に拒否反応を示すだけということだ。

 かつては相撲と並んで日本の国技ともいえた野球だって、明治時代は

 「あんな《塁を盗む》なんていう卑劣なルールがある競技は、武士道からして考えられへんで!」

 なんてマスコミが大挙して「野球害悪論」のキャンペーンを張ったものだ。

 今となっては笑い話だが、当時は大まじめどころか、野球擁護論者の必死の反論がなければ、今ごろ甲子園もプロ野球も存在しなかったかもしれないのだ。

 そう考えると、今の「○○が日本をダメにする」みたいな言論が、いかに普遍性をもたないものかがよくわかる。

 そりゃ、単なる「あんたの好き嫌い」ですやん、ねえ。



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