おそるべき替え歌すりこみ体験記 『藁の中の七面鳥』&ベートーベン交響曲第9番『歓喜の歌』編

2017年04月03日 | 音楽

 替え歌のすりこみというのはおそろしい。

 人を洗脳し、思うままにあやつろうという試みは、オウムやFBIのMKウルトラ計画などなど様々あったものだが、



 「一度とりつかれると、もうその通りにしか行動できず、元の人生に戻れなくなる」



 という意味では、ゆかいで、よくできた替え歌というのは、その最たるかもしれない。

 最近では『森のくまさん』がどうとか騒動があったけど、『隣組』と『ドリフのビバノン音頭』とか、『太陽戦隊サンバルカン』と『愛國戦隊大日本』など、私の中ではすでに「本家越え」されていると言っていい。

 映画『戦場に架ける橋』で有名な『ボギー大佐』を、



 「サル、ゴリラ、チンパンジー」



 この歌詞で歌うなど、だれが最初に考えたのかわからないが、もはや「天才の仕事だ」と感嘆するしかなく、今さら

 「の歌詞はこんなんやで」

 と持ってこられても困るくらいだ。

 かように、強烈な「すりこみ力」を持つ替え歌が、「洗脳」を主目的とするCMで使われるのは必然というもの。

 私も数々の名作替え歌で、「元歌詞クラッシュ」の憂き目にあった。

 古い話で恐縮だが、私の世代だと『藁の中の七面鳥』はすべて、



 「あっらこんなーとっころに牛肉が、たまねーぎーたまねぎあったわね」



 としか歌えなくなる(そんなCMがあったんです→こちら)。

 この曲を聞くと、運動会のフォークダンスではなく、ハッシュドビーフが食べたくなるのだ。

 そのインパクトたるや、なぜか桜玉吉さんがマンガの中で頻出させたくらいのもので、今考えると、なにかこう絶妙に「イラッとさせる」要素があったらしい。

 学校などで訊くと、

 

 「あのCМ、なんかムカつくよな」

 

 という声もよく聞いたし、当時のボキャブラリーからしても、



 「そもそも、ハッシュドビーフってなんやねん!」



 というつっこみも入るところだ。

 下町育ちのガキに、横文字のメシといえばカレーラーメンくらいなのである。

 まあ、悪名は無名に勝るという意味では、これだけ視聴者の心をザワザワさせた、ハウス食品のヒット作といえるかもしれない。
 
 食べ物関係でいえば、ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調もアウトだ。

 俗に「歓喜の歌」といわれるアレだが、この曲にはじめて接したのが、1万人の第九とかではなく、これがどん兵衛のCM。

 今だと、このCMといえば思い浮かぶのは上戸彩さんか、あるいはスマップ中居君といったところだが、私が子供のころといえば、山城新伍さんと川谷拓三さんでおなじみだった。

 年末になると、年越しそば販売を見越して、けっこうどん兵衛のCMを見ることとなるのだが、そこで流れるのが歓喜の歌。

 新伍&拓三が、合唱団を引き連れて歌う、その歌詞というのが、



 「仕事納めだ正月近い みんなで楽しく天ぷらそば食べよう」



 これが、歓喜の歌のメロディーに合わせて流れてくる(→こちら)。

 これを毎年聞かされた私は、この曲といえば

 

 「フロイデ、シェーネー、ゲッテルフンケン」

 

 ではなく、

 

 「しーごとおさめーだ」。

 

 だれがなんといおうと、そうなってしまう。

 学生時代、私はドイツ文学が専攻だったので、ベートーヴェンというよりシラーとしてこれを暗記したが、そんな自分でも、暗唱しながら脳内に流れるのはやはり、すべての人が兄弟にどうたらとかではなく、どん兵衛なのだ。

 さあ、みんなも歌ってみよう。しーごとおさめーはー。

 もう、あなたは、あの時代には戻れない。

 のちに、この曲を再ブレイク(?)させる『新世紀エヴァンゲリオン』の第弐拾四話において碇シンジ君が、



 「カヲル君、キミが何をいってるのかわからないよ!」


 悲鳴を上げていたけど、私にははっきりと、あのメロディーとともにカヲル君が、



 「楽しく天ぷらそばを食べよう」



 と言っていることは、わかるのである。


 (「ロッキーのテーマ」の替え歌編に続く→こちら



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