前回の続き。
2009年、第57期王座戦の挑戦者決定戦。
中川大輔七段と山崎隆之七段との一戦は相掛かりから、両者らしい力戦模様の戦いになっている。
山崎が銀を▲36にくり出して、△33桂の悪形を強要すれば、中川はその間に金銀をくり出し、△14歩から△13角で上部からの殺到をねらう。
ここから先手は▲24歩、△同歩と手筋の打ち捨てで△13角を緩和させ、▲45歩、△56歩、▲65歩、△53銀。
そこで▲79玉と自陣に手を入れ、ねじり合いの時間が始まった。
何度見てもステキな中川先生。
そこから駒がぶつかり合って、この局面。
中川が△64銀と上がったところ。
自陣がうすくなって指しにくいが、次に△75銀から△86歩が、かなりのきびしさ。
後手の攻め駒がすべて良いところに利いており、どう受けるのかというところだが、ここからの山崎は軽快だった。
▲53歩と打つのが、筋中の筋という一着。
放っておくのは気持ち悪すぎるが、かといってこれが、どう応じても味が悪いという困った歩。
△同銀引はありえないし、△同銀上は自陣がうすくなる。
かといって△51歩は利かされすぎだし、なにより歩切れになってしまっては、今度は攻めの方が心配になってしまう。
山崎といえばNHK将棋講座でもおなじみの「ちょいワル逆転術」だが、いかにもそれっぽい雰囲気。
いやー、これはマジで悩む。
中川はかまわず△75銀と出るも(きっとすごい駒音だったに違いない)、そこで今度は▲76金打の強防。
攻めを呼びこんでいるようだが、このパワーショベルによる重たいブロックで、先手陣は意外と寄らないのだった。
▲53歩の借金を残す後手は、攻め続けるしかないと△86歩。
▲同金上、△同銀、▲同金、△57金の食らいつきに、▲55角と出るのが、すこぶるつきに感触の良い手。
玉のフトコロを広げながら、8筋で目標にされそうな角を飛車取りの先手で、大海にさばいていく。
▲53歩のタラシで嫌がらせをし、やや無理気味に動いてきたところをいなしていき、敵の戦線が伸び切ったところで、その裏をついて一気のカウンター。
このあたりは、山崎の戦上手なところが発揮されているところだ。
△64銀と必死の防戦にも▲73銀と飛車取りに打って、△92飛、▲64銀成、△同歩。
そこで▲72歩がまた軽妙手で、攻めがつながっている。
図は▲72歩に、△51歩と打ったところ。
局面は山崎勝ちの流れだが、中川も初のタイトル戦を前に、簡単にはまいらない。
底歩一発で「ねばりまくってやるぞ!」と宣言しているのだが、ここで三たび軽妙手が飛び出して、山崎勝ちが決まるのだ。
▲52歩成、△同歩、▲83銀で先手勝勢。
打ったばかりの底歩を無効化させる歩の成り捨てが、やはりこの際の手筋だった。
△同玉とは指し切れないから△同歩だが、これで飛車を取りに行けば、後手玉は受ける形がない。
一方の先手玉は右辺から攻められても、8筋、9筋の非常階段に逃げこめば、まず捕まらない。
中川は△31玉から執念の逃走劇を見せるが、▲23歩と退路封鎖し、以下丁寧な寄せで後手のねばりを振り切った。
こうしてついに、待ちに待った山崎隆之のタイトル戦登場となった。
ようやっとという感じだが、これはもちろん、まだまだ道半ば。
このレベルの棋士だと、挑戦だけして「おめでとう」とはならない。「取ってナンボ」なのである。
しかし、それが簡単ではないのが、皆も知るところ。
待ち受けるのは最強の男である羽生善治王座。
しかも現在、王座を17連覇中という、とんでもない看板を引っ提げての登場だ。