このドイツ文学がすごい! 生野幸吉&桧山哲彦 編『ドイツ名詩選』

2018年04月14日 | 

 第二外国語の選択はむずかしい。

 というテーマで以前少し語ったが(→こちら)、私の場合はドイツ文学科に進学したので、これに関しては泣いてもわめいても「強制ドイツ語」。

 前回はハイネの『流刑の神々 精霊物語』を取り上げたが(→こちら)、今回も私をそんなマイナー街道へと導いた、罪深くもすばらしい作品の数々を紹介したい。

 生野幸吉&桧山哲彦 編『ドイツ名詩選

 ふだん日本語だと、さほどなじみがないが、外国語をやっていると、というジャンルと接する機会がままある。

 小説などとちがって、翻訳だと味わうのがむずかしい詩という表現形式をダイレクトに味わえるのが、語学学習の醍醐味ともいえるだろう。

 私もドイツ語学習者の御多分にもれず、多くの詩を暗唱し暗記したものだが、それには大学の恩師の影響がある。

 ドイツ語学の講義を担当しておられた先生が、ヘルマン・ヘッセ『デミアン』における少年同士のキスシーンや、映画『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンの美しさを語ってくれたことがあった。

 また先生は同時に、学生時代は野球部の先輩お尻がステキだった話も熱く語ってくれて、全体的にやや偏りがある授業だったが、そこで取り上げられたのがドイツの詩について。



 「みなさんは、この4年間に多くのドイツ語にふれると思いますが、散文とともに詩もたくさん暗記してください」。


 そこで、ヘルダーリンノヴァーリスの作品をいくつか朗々と歌い上げると、


 「これらの詩は、おぼえたからといって、別にお金になったりするものではありません。でも、まちがいなく人生豊かにしてくれます」

 

 先生は続けて、

 

 「あなたたちがを取っても、若いときに口ずさんだというのは、いつまでもあなたたちとともにあり、その心を青春のときまで戻してくれるでしょう」。


 ガラにもないことだが、若き日の自分はこれを聴いて、なかなかに感動してしまった。

 そっかー、詩をおぼえてたら、それはおじいちゃんになっても残るものなんやー。

 そもそも文学部に来ようというようなヤカラは、

 

 「金になる」

 「就職に役立つ」

 

 などといった、即物的な発想を軽く見ているもの(いやあ、ホントはメッチャ大事ッスけどねー)。

 そんな生意気な小僧にとって、

 

 「外国の詩を原語で暗唱する」

 

 という、まさに人生においてまったく使い道のないスキルというのは、すこぶる魅力的だった。

 まったくもって、今となっては、

 

 「そんなことよりバイトでもしとけ」

 

 とか説教したい所存だ。

 そもそも文学部に行くなよ。経済学部か商学部行って、合コンとか楽しんどいたほうがいいよ!

 かくして、ロマン派気取りのボンクラ学生は、ここに岩波文庫から出たばかりだった『ドイツ名詩選』を購入。

 冒頭からズラリと並んだ詩の数々を、順番に頭にたたきこんでいったのだ。

 パウルツェラン死のフーガ』をはじめ、モルゲンシュテルンカシュニッツなど、日本ではなじみのない詩にふれられたのは大きな財産だ。

 これに味を占めた私は、そこからもエーリヒケストナー人生処方詩集』や、ゲーテの「君よ知るや南の国」、シラーの『歓喜の歌』など、それらをガツガツと身につけていった。

 若かりしころ歌い上げた、これら豊饒な詩歌の数々は、時を越え、若者とは言えなくなった壮年の私に今も……。

 といいたいところであるが、今回の記事を書くにあたり、のことをあれこれ思い出してみて、気がついたのだった。

 ありゃあ、ワシ、あんときおぼえた詩、もうほとんど記憶にないわわ。

 これには我ながら、スココーンとコケそうになった。

 さほど記憶力の良い方ではないけど、それにしたって全然おぼえてないとはどういうことか。

 おかしいなあ。当時は友人とカラオケに行った際は、酔っ払ってシューベルトの『菩提樹』やベートーベン第9を高らかに歌い上げて、周囲に嫌な顔をされたものだが、さっぱり頭から抜け落ちている。

 うーむ、これにはなんだか、先生に申し訳ない気持ちになってしまった。阿呆ですいません

 ただ、おもしろいなあと思うのは、あのころの「詩」はがらんどうになったけど、「歌詞」の方はおぼえているものが多い。

 ドイツ語の勉強に聴いた、むこうの伝統的な古いの数々。

 原語で「Lied」(「リート」と発音します)といいまして、日本でいえば「ひなまつり」とか「うさぎおいしかのやま」みたいな唱歌にあたるもの。

 これはけっこう、でも歌えるのだ。



 「Freut euch des Lebens」

 「Muss i denn」

 「Rosamunde」

 「Heidi」



 などなど。

 こういう唱歌的なものは、歌詞もメロディーもわかりやすく、自然に口をついてきやすい。


 Freut euch des Lebens,

 weil noch das Lampchen gluht!

 Pflucket die Rose,

 eh sie verbluht!


 おお、これならバッチリ。

 「」は忘れても「歌詞」は残っている。

 要するに私は、昔から「芸術」よりも「エンタメ」寄りの人間のようだ。

 美しさよりも楽しさ。

 まあともかくも、詩というのは、その言語の持つ「リズム感」を味わうのにもっとも適している。

 ドイツ語にかぎらず、外国語を学ぶなら、ぜひとも自分だけの、お気に入りの詩を見つけていただきたい。


 
 ★おまけ ドイツのリートの数々。

 「Freut euch des Lebens」→こちら

 「Muss i denn」→こちら

 「Rosamunde」→こちら

 「Heidi」→こちら


 同世代のみんながチャゲアスやZARDを聴いていた中、私だけこんなんを聴いていたわけだ。変なヤツ。


 (ツヴァイク戦に続く→こちら



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