古いテニス雑誌を読んでみた。
私はテニスファンなので、よくテニスの雑誌を買うのだが、古いバックナンバーを購入して読むのが、ひそかな趣味である。
ブックオフなんかで1冊100円で投げ売りされているのなどを開いてみると、「あー、なつかしい」とか「おー、こんな選手おったなー」などやたらと楽しく、ついつい時間が経つのも忘れてしまうのだ。
今回読んでみたのは『スマッシュ』の2012年8月号。
フレンチ・オープンの特集号で、表紙は優勝して赤土にひざまずくマリア・シャラポワ。
今号で興味をひかれるのは、一時期物議をかもした「ブルークレー」問題。
初夏のヨーロッパはクレーコートの季節。コロナの影響でテニスのツアーもストップしているけど、本来ならローラン・ギャロスにむけたクレーの大会で盛り上がり始めるころ。
クレーといえば「赤土」なイメージがあるけど、アメリカのUSクレーコート選手権では緑の「グリーンクレー」があり、さらにもうひとつ青いクレーコートというのも存在したことがあった。
ただ、このブルークレーコート、使ってみるとこれが、すこぶる評判が悪かった。
見た目の違和感もさることながら、
「すべりすぎる。氷の上でプレーしてるみたい」
という理由で、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチといったトップ選手からも、猛反対を受けていたのだ。
実際、これを採用したマドリード・オープンではナダルとジョコビッチが早期敗退。
特にナダルはその年、クレーコートで22連勝していて、その記録が止まってしまったのだから痛いではないか。
では、なぜにて、そんな案が通ってしまったのかといえば、これがイオン・ティリアックという大物マネージャーの仕業。
元ルーマニアのテニス選手だった彼は、引退後ビジネスの世界で大成功し、テニス界にも大きな影響力を持つことに。
で、この人が、一代で名をあげた「大物」にありがちなように、とにかくクセがすごい。
エゴイズムが強烈で、主催する大会では常に一番目立つ席に陣取り、自らの存在感をアピール。
仕事面でも、あらゆる会社に自らの「ティリアック」の名を冠し、このマドリード大会でも金とダイヤをちりばめた、成金趣味丸出しのその名も「ティリアック・トロフィー」を用意したのだから、わかりやすい人である。
この人がひとたび、
「クレーは青がええんや」
そう言い出したのだから、それをくつがえすなど、できるはずもない。
一応ティリアック側の言い分では、
「青い方がボールもよう見えるし、あざやかでテレビ映りもキレイやないか」
とのことだが、この話題を取り上げているレネ・シュタウファー記者によれば、
「赤でもよく見えるし、青いコートはパッとしないし、足跡が目立ってかえって汚いのではないか」
まあ見た目は慣れもあるかもしれないけど、クレーを青くするために酸化鉄を土から取り除かなければならないそうで、そのため、すべり止め効果が失われるのは問題だ。
かたよったサーフェスは選手のプレーに悪影響をあたえる。スポーツ選手の仕事は勝つことだが、「いいプレーを見せる」ことも大事なわけで、そこを犠牲にしてはいかんだろう。
その意味では、私もどちらかといえば反対派であり、なにより変更理由が、
「クセの強いオッチャンのごり押し」
というのが一番引っかかるところだ。
イオン・ティリアックがテニス界に大きな貢献をしていることは事実だろうけど、トップ選手が早期敗退するような変更は、百害あって一利なしではないか。
なんて外野としては思うわけだけど、やはり「大物」の意向にはなかなか逆らえないし、またマドリード・オープン自体があまり人気のない大会なため、なんとか話題づくりもしたい事情もあって、ATPの会長も頭をかかえているとか。
もしこのままブルークレーで行くなら、ナダルやジョコビッチが大会をボイコットする可能性もあり、これにはティリアックも、
「えー、2人けえへんの? そんなん残念やわあ」
そうボヤいているそうだけど、それやったらアンタが変なこと言いだすなよ! とレネさんも、つっこんでおられます。たしかにねえ。
まこと、「大物」というのはめんどくさいものだけど、次の年からは無事(?)ブルークレーは廃止になり、なんとかめでたしめでたし。
ただひとつすごいのは、なんのかのいってこのコートに適応して優勝してしまったロジャー・フェデラー。
当時はまだ全盛期の勢いを取り戻せてなかったはずだけど、こういうところはすごいもんだ。
ビッグネームが優勝してくれて、大会側としてはホッとしたろうが、なんにしても、まったく罪作りな「鶴の一声」である。
この号にあった他のニュースとしては、
「ナダルとジョコビッチ、グランドスラム4大会連続で決勝対決」
「ダビド・ゴファン、ラッキールーザーからローラン・ギャロス4回戦進出」
「錦織圭、ロンドン・オリンピック出場確定」
などもあったが、長くなってしまったので、次の機会としたい。