詰む詰まないの迷宮 近藤誠也vs羽生善治 2018年 第59期王位リーグ

2020年12月19日 | 将棋・好手 妙手

 「近藤誠也の、あの顔やね」


 

 という出だしから、前回は第3回アべマトーナメント決勝で見せた近藤誠也七段の表情が、亡くなった村山聖九段を思い起こさせることを書いた。

 ここではふだん、先日紹介した中村修九段の若手時代に見せた将棋のような(22歳のとき!)ヴィンテージマッチを紹介しているが(→こちら)、もちろん今の将棋もあれこれ観戦している。

 せっかく今の若手の話をしたので、今回はその近藤誠也の将棋を見てみることにしようということで、2018年の第59期王位リーグ

 羽生善治竜王との一戦。

 近藤誠也と言えばデビュー初年で、いきなり超難関の王将リーグに入るというスゴ技を見せつけた。

 強豪ひしめくリーグ戦では陥落の憂き目に合うも、そこで豊島将之羽生善治を破るという大金星を挙げる。

 しかもこれによって、羽生はリーグ陥落を喰らってしまうのだから(この前いつ落ちたか思い出せないくらいだ)、新人らしく大いに「かき回した」と言えよう。

 トップ棋士からすれば、若手との初戦は多少様子見の一面もあるだろうが、この場合はなかなかに痛い負け。

 羽生はこういうとき、容赦ない復讐を敢行し「つぶし」にかかってくるが、果たしてこの将棋はどうか。

 横歩取りから、後手の羽生もまた横歩を取りに行く積極策を見せ、激しい戦いに。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 ネット中継で見ていたが、ここで解説のプロ同様「え?」となる。

 ここは羽生の手番だから、△68銀成とすれば、次の△89飛成詰めろで、▲88金などと受けても、△67成銀で一手一手なのだ。

 

 

 一方、後手玉に詰みはないから、これで決まりのようだが、実戦は△89歩成

 △68銀成に、なにかスゴイしのぎでもあるのかと、思わずモニターにかぶりついてしまったが、なんとこれが両者ともに見落としていた筋。

 


 近藤「うっかりしてました」

 羽生「あっ。そうか、ひどいですね」


 

 トッププロでも、こういうことがあるのだ。

 ある意味、この2人の読みの波長が合っていたから起こった、ともいえるかもしれない。

 椿事だったが、本譜は△89歩成から▲79金△99と▲88玉△83銀▲55桂△51桂と進行。

 

 

 

 

 『将棋世界』の解説によると、最後の△51桂では△74銀と攻防に活用すれば後手が良かったそうだが、この手で混戦になってしまったよう。

 クライマックスはこの場面。

 

 

 

 羽生玉には詰めろがかかっているため、近藤玉を詰ますか、受けに回るかの選択を迫られている。

 詰ますのはむずかしそうだから、△32飛成で息長く指すのかなあと見ていたのだが、それには▲33歩のタタキが手筋で、これがまた悩ましい。

 羽生は△89銀から、決然と踏みこんでいく。▲同玉△77桂の王手。

 

 

 

 

 ここが運命の分かれ道だった。

 近藤誠也は秒に追われて▲78玉と逃げたが、これは地獄行きルートだった。

 △89角と打って、▲77玉に△67角成から先手玉は逃げられない。

 ここでは目をつぶって▲同金と取り、△88歩▲79玉とかわせば詰みはなかった。

 

 

 

 

 とはいえ、これは相当に難解、かつ危険な変化をたくさんはらんでおり、1分将棋ですべてを読みつぶすのは至難。

 羽生によると、「1歩足りない」という変化があって、それが△77桂で、代わって△39飛成と追う変化。

 以下、▲79金、△88歩、▲78玉、△89角、▲同金、△同竜、▲77玉。

 △79竜、▲78歩、△65桂、▲66玉、△54桂、▲65玉、△55金、▲同玉、△37角、▲65玉、△64金、▲同銀、△同角成、▲56玉、△65銀、▲47玉、△49竜、▲36玉、△38竜、▲25玉。

 

 

 

 ここで後手に1歩でもあれば、△24歩、▲同玉、△46馬という筋でピッタリ詰むのだが、まさに紙一重で先手の逃げ切り。

 将棋の記事や本をおもしろく読むコツは、

 

 「難解な変化や長い手順は、どんどん飛ばして読む」

 

 ことだから、ザッと飛ばしていただきたいが、おもしろい変化だったので、ちょっと紹介してみた。

 ということは、おそらくその他にも無数の王手の筋に、このような難解な手順が内包されているわけで、近藤誠也の若さと計算力をもってしても解明できなかった、すこぶるおもしろい終盤戦ということ。

 敗れたとはいえ、最後までドキドキハラハラの大熱戦で、トップ棋士相手に十分力を見せたと言っていいだろう。

 こういう将棋と気迫でもって、

 

 「若くてイキのええのは、藤井聡太だけやないんやで!」

 

 どんどん存在をアピールしていってほしいものだ。期待してます!

 


 (中田功の「コーヤン流三間飛車」編に続く→こちら

 

 

コメント
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