「フリードリヒ」と思いきや「フェデリーコ」 藤沢道郎『物語 イタリアの歴史』

2023年03月09日 | 
 藤沢道郎『物語 イタリアの歴史』を再読する。

 中公新書の『物語 ○○の歴史』シリーズはよくお世話になっていて、学生時代とか気になる地域があると手に取ったもの。

 ざっと思い出してみると、猿谷要先生の『アメリカ』。阿部謹也先生の『ドイツ』。
 
 あと『北欧』『アイルランド』『ラテンアメリカ』『スペイン(「人物編」も)』『ウクライナ』『近現代ギリシャ』といったところ。

 思い入れとしては、ドイツ文学科出身で『ハーメルンの笛吹き男』などでもお世話になった自分なら、阿部先生の『ドイツ』を推したいところだが、ちょっと記述が教科書チックで単調な気もしないでもない。

 『アメリカ』のリーダビリティはさすがだし、『近現代ギリシャ』もわかりやすくて勉強になりオススメだが、やはりタイトル通りの『物語』での出来では、藤沢道郎先生の『イタリア』がダントツではなかろうか。

 藤沢先生の『イタリア』はとにかく文章がメチャクチャにうまい。

 「文章がうまい」の定義というのは難しいけど、


 「リズムテンポに優れて読みやすく、それでいてライトに堕さず格調高い
 

 くらいに取るなら、これはもう『イタリア』の独壇場と言っていいくらいにお上手なのだ。

 「聖者フランチェスコ」「ボッカチオ」「ミケランジェロ」「ベルディ」など、人物別に分かれていて、一遍が程よい長さで読み進めやすいのもポイント。

 流麗な文章に導かれてサクサク読んでいるうちに、いつのまにかイタリアの文化や歴史に親しんでいる。もう、とんでもないスグレ本なのである。

 なんといっても素晴らしいのが、これがちゃんとタイトル通り「物語」になっていること。

 この「物語」シリーズはどこかのレビューで「当たりハズレ」があると書いてあったけど、それはおそらく中身がというよりも「物語」としての出来が問題なのではあるまいか。

 阿部先生の『ドイツ』がそうなんだけど、やはりちょっと教科書みたいな感じになってしまうことがあるというか、特に専門外の時代になると(たとえば阿部先生の場合は「中世ヨーロッパ」以外)、ますますそういう感じになって、バランスを欠いてしまいがち。

 その点、『イタリア』は取り上げる時代や一編の長さから、あつかう文体まですべてが実にうまくまとまっている。

 ホント小説のようというか、シュテファンツヴァイクみたいなノリで、なんというのか「物語の完成度」が高いのだ。

 だから、このレベルとくらべると、どうしても「当たりハズレ」といいたくなる人も出てくるだろう。

 似たような件に、『○○ 旅の雑学ノート』シリーズというのがあって、探せば色んな地域が出てるんだけど、本屋では「香港」「パリ」「ロンドン」しか見かけない。

 これには旅行ライターの前川健一さんが、


 「このシリーズは最初の【香港】を書いた山口文憲と、【パリ】【ロンドン】を受け持った玉村豊男の2人がいい仕事をしすぎて、それ以降は書き手がこの水準についていけなかった」


 と、おっしゃっていたが、「当たりハズレ」レビューの人も、やはり『イタリア』あたりを基準点としていたのかもしれない。
 
 じゃあ、少々のものでは「ハズレ」になっちゃいますわな。

 とにかく、イタリアの歴史や「物語シリーズ」に興味がわけば、まずはこれを手に取るのが一番。

 あとは、塩野七生さん、須賀敦子さんや、藤沢先生が翻訳を担当されているモンタネッリの『ローマの歴史』『ルネサンスの歴史 黄金期のイタリア』(ロベルトジェルヴァーゾとの共著)とか、ガリガリ読んでいけばいいと思います。激オススメ。

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