怪獣レインボー作戦 先崎学vs小倉久史 1990年 C級2組順位戦 その2

2023年04月27日 | 将棋・名局
 前回の続き。
 
 1990年C級2組順位戦
 
 先崎学五段小倉久史四段の一戦は、三間飛車穴熊の大激戦となった。
 
 この将棋は特に、小倉の独特な指しまわしが印象的で、振り飛車党特有の
 
 「なんやかやで崩れない」
 
 という不思議な腕力が見どころのひとつだ。
 
 
 
 
 
 
 ▲32銀飛車を責めたところに、△22金の受けが力強い。
 
 ▲21銀成には△33金で、▲21の成銀が遊ぶのが不本意だが、ここで▲44角成と捨てるのが先崎のひねり出した好手
 
 ▲44角成△32金▲53馬
 
 △44同銀▲21銀成△同金▲44角とさばいて先手優勢だから、小倉は▲44角成△同銀▲21銀成に銀を取らずに△33金とこっちのを支えて踏んばる。
 
 固さを頼りに食いつこうとする先手に対し、後手も自陣飛車を打って頑強に抵抗する。
 
 
 
 
 
 このあたりの攻防も、めったやたらにおもしろいのだが、やはり玉形の差で、少しずつ振り飛車が押され気味のように見える。
 
 むかえた、この局面。
 
 
 
 
 先手の攻めは、かなりうるさい感じ。こうなると、を詰められている形も痛い。
 
 穴熊ペースの終盤戦かと思いきや、ここでの3手1組の好手順でまだまだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 △77竜▲同銀△35角が、小倉の腕力を見せた手順。
 
 接近戦では働きにくいを捨ててからの、攻防の打ち。
 
 ▲68歩△53銀と取って、まだまだ戦える。穴熊のを一枚上ずらせたのも大きい。
 
 序盤定跡書や今ならAIで、終盤力詰将棋などできたえられるが、こういう手はなかなか机上の知識では身につけにくく、やはり強い人の実戦を参考にするのがいいのだろう。
 
 さらにもみあって、再度の自陣飛車
 
 
 
 
 
 このねばり強さには感嘆するしかない。負けてたまるかという執念を感じる。
 
 ▲33馬と逃げたところに△79金と置いておくのも、実戦的好手。
 
 とにかく王手をかかる、いわゆる「見える」形にしておくのが穴熊攻略のコツである。いやあ、熱いですわ。
 
 若手同士が、才能と勝利への執着をむき出しにした、順位戦らしいねじり合いだが、最後に抜け出したのは先崎だった。
 
 
 
 
 
 後手が△61銀打と埋めたところだが、この局面で決め手がある。
 
 ここで取るべき駒は、「あれ」ではなく……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲69飛とこちらのを取るのが好手。
 
 タダでを取れるのに、飛車銀交換に甘んじるなど損しかないところだが、△同金と攻め駒を遠ざける方が急務なのだ。
 
 現に▲43飛成を取ると、△78角と強引にへばりつく筋で、先手玉は受けがむずかしい。
 
 
 
 
 
 
 △79金と「見える」形にする効果が、ここであらわれており、振り飛車の常套手段である△84も光り輝いている。
 
 こういう喰いつかれ方をすると、せまくて逃げ道がなく、を埋めるスペースも失って、穴熊の負けパターンだ。
 
 後手は最悪、千日手に逃げられそうで、まったく油断ならない。
 
 ところが、一回△79をずらされると、先手玉に王手も来ないどころか、たとえば次に△79角と打って、△88角成などしても、▲同銀の形が、やはりトン死筋どころか王手もかからない。
 
 穴熊の深さを存分に活かした戦いぶりで、とうとう先手勝ちがハッキリしてきた。
 
 △69同金以下、▲52歩△同金寄▲53歩△同金左▲65桂と自然に寄せて試合終了。
 
 ……といいたいところだが、敗勢になってからの小倉の根性もまたすさまじく、先崎は「いいかげんにしろ!」とばかりに自陣に金銀をはり付け穴熊をリフォームするが、それでも投げずに徹底抗戦
 
 
 
 
 
 この△22銀というのも、なにやらすごい手で、ただの侵入を防いだだけだが、投げきれない小倉の無念が伝わってきて胸をつかれる。
 
 それにしても先手の穴熊玉の、なんと遠いことよ。
 
 
 すでに大勢は決していたが、
 
 
 「若手棋士はこうでなくっちゃな!」
 
 
 そう思わせる迫力は十二分に感じられる一手。
 
 原田康夫九段なら、
 
 
 「すばらしい戦いを見せた両者に拍手、拍手」
 
 
 賛辞を送ったことだろう。
 
 若手同士のライバル心、中終盤のねじり合い、切れ味鋭い決め手と、私の好物がすべて詰まったこの一局は、『先ちゃんの順位戦泣き笑い熱局集』という本に棋譜とくわしい解説が載っています。
 
 敗れたとはいえ、小倉久史のしぶとい指しまわし。振り飛車党には一見の価値アリです。
 
 
 
 (先崎のうますぎる穴熊の戦い方はこちら
 
 (三間飛車といえばこの人、中田功の神業的さばきはこちら
 
 (その他の将棋記事はこちらから)
 
 
 
 

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