「大統領のヘルメット」という言葉をご存じだろうか。
オタク評論からダイエット、モテ論から下世話なスキャンダルまで、幅広い分野で活躍している「オタキング」こと岡田斗司夫氏が、映画『インデペンデンス・デイ』について語った時に飛び出した言葉だ。
『インデペンデンス・デイ』
最近、続編が作られてヒットしたのは記憶に新しいが、ローランド・エメリッヒ監督のSF映画。
大統領自らジェット機に乗って宇宙人と戦うわ、黒人パイロットが宇宙人をグーパンチで殴るわ、それが今時タコ型。
どこの星から来たかもわからん宇宙船に、コンピュータ・ウィルスが通用するわ(やっぱWindows搭載だったのだろうか)、とつっこみどころたくさんの痛快バカ映画である。
現地で、この果汁ならぬ「US100%」な映画を、スタンディング・オベーションするアメリカ人たちに混じって、ゲラゲラ笑いながら観たという岡田さん、
「この傑作(色んな意味で)を、ぜひとも日本の映画ファンに伝えねばならん」
帰国後、それはそれは熱く、熱く語り始めたのだ。
この映画の最大の盛り上がりどころ(笑いどころ)といえば、アメリカ大統領が自ら戦闘機に乗って侵略宇宙人に立ち向かうシーンであろう。
いうなれば、地球に宣戦布告してきたバルタン星人に天皇陛下が
「朕が出るしかないな」
そうつぶやいて、零戦で戦いを挑むようなもんである。
その名場面にふれて岡田さんは、
「すごいんですわ! 大統領が『ここは私がいかねばならん!』いうて押し入れから銀のヘルメットを取り出して、頭にかぶるんですわ!」
映画を観た方なら、すぐにおわかりだろう。あの映画に、そんなステキなシーンはないのである。
これを受けて、岡田さんの元にファンから
「例のシーンなかったんですけど、やはり日本公開時にはカットされてたんですか?」
という質問が多数寄せられたそうであるが(しかし、いい邪推だなあ)、ないものはないし、そもそもホワイトハウスに押し入れはないと思う。たぶん。
そう、岡田さんは『インデペンデンス・デイ』のおもしろさを伝えたいあまり、筆がすべって、妄想を本当に観たかのように思いこんでしまったのである。
この事実を知ったときの岡田さんの反応がふるっている。DVDを見直しながら、
「おかしいなあ、たしかに観たんやけどなあ」
首をひねって、こうつぶやいたという。
「でも、オレの妄想の方がオモロイから、ええやん」
そう、たしかに『インデペンデンス・デイ』って、いかにも大統領が銀のヘルメットかぶって出動しそうな映画なんですわ。
押し入れかって、エメリッヒの頭の中のホワイトハウスなら、あってもおかしくはないぞ、と。
それ以来、そういった想像力あまねきな仮想記憶のことを映画ファンは「大統領のヘルメット」と呼ぶようになったのである。
さて、なぜ私が今日このような話をしているかといえば、こないだものごっつい「大統領のヘルメット」に遭遇したから。
けっこう有名なサスペンス映画で、すごい記憶違いがあったのだ。
クライマックス、それまで悪者に痛めつけられてきた主人公が知恵をしぼって反撃に出るのだが、その最後の大バトルでビックリ仰天。
たしか昔見たときは、主人公がボロボロになりがらも勝ってた記憶があるんだけど、なんとこないだ見直したら、思いっきり殺されていたのだ。
えー! 暗い映画だったけど、一応ハッピーエンドのはずがまさかの大バッドエンドだったとは。
オチ中のオチだから、タイトル言えなくて歯切れが悪くなっちゃうんだけど、まあ驚いたのなんの。
逆や、これやと内容、まったくの逆やんけ!
いわば、『エイリアン』見直してリプリーが最後エイリアンに殺されて終わりだったとか、『ターミネーター』でサラ・コナーが負けちゃって人類終了とか、実はそんなオチだったみたいな気分。
これにはもう、まったく吃驚するやらあきれるやだが、人の記憶なんてあてにならんもんです。
おそらく当ページの映画や本の紹介文にも、似たようなポカが多々あるに違いない。
そういうときは「あ、大統領のヘルメットやな」と、半笑いで見逃してあげてください。