前回(→こちら)の続き
「今の若い者は本物を知らんのやな」。
そんな嘆き節を発したのは、友人イマフネ君である。
本物を知らない。
なるほど、昨今の日本は不景気なせいか、商品でもエンターテイメントでも廉価版がはびこっている印象がある。
レストランよりもチェーンのハンバーガーや牛丼、お菓子もパティシエの作るケーキよりもコンビニスイーツ。
映画は名画座ではなくDVDで鑑賞し、エロもアダルトビデオではなく、ネットの無料動画ですませるというありさまだ。
それが時代であり、まあ悪いとは言わないが、それだけというのも、なにやらさみしい気もする。
いくらデフレの世の中とはいえ、ときには我々も「本物」を嗜好するのも悪くはあるまい。
こういうことをいうと、年寄りのグチやら、果ては「老害」認定されるかもしれないが、そこをあえて踏みこむ友は、なかなかに豪気だ。
そう、人間、批判されても、言うべきことはある。
まったく、わが友ながら大した男だ。
で、その大人物イマフネ君がいう、若者に味わってほしい本物とはなんなのか、グルメか、それとも文学や音楽のことなのかと問うならば、
「そらもう、スパイダーマンに決まってるやんけ」
へ? スパイダーマン? あの今やってるハリウッド版のこと?
あれやったら、別にキミがいわんでも、みんな観てはるんちゃうと問うならば、
「ドアホ! あんなスマートなんが、スパイダーマンなわけないやろ。オレが言うてる『本物』は東映版のヤツや。チェーンジ、レオパルドーン! の方に決まってるやないか!」
おお、そうか。東映版のヤツか!
などと言われても、昨今のヤングにはなんのこっちゃかもしれないが、実は我々のような昭和世代にとってスパイダーマンといえばハリウッドではなく東映製作。
アメイジングではなく、レオパルドンなのである。
おもしろいものはネットではなく、『てれびくん』とか『テレビランド』で情報収集していた時代なのだ。
かのマーベル・コミックのヒーローであるスパイダーマンは、一度日本で実写化されている。
でもって、このスパイダーマンというのが、なんとも変というか、日本独特にアレンジされたシロモノ。
どこがヘンといえば、まあ一言でいえば汗臭いというか、いかにも昭和特撮といった暑苦しさ。
なんといっても有名なのが、キメポーズと決め台詞。
やたらとくどい動きと、押しつけがましさ充分の声量で、
「愛のために血を流す男、スパイダーマン!」
とか、カマしてくるのである。
はっきりいってうっとうしい。ハリウッド版のような、恋人や家族とのしっとりとしたドラマなど、熱波で吹き飛ばす勢い。
とにかく熱い。サウナで鍋焼きうどんを食わされている気分だ。
さらにもうひとつ、この東映版の売りとしてはレオパルドンははずせまい。
チェーンジ! レオパルドーン!
との絶叫とともに登場するこの日本オリジナルのメカは、とにかくもう
「おもちゃ屋の陰謀」
という色が強すぎて、強烈なインパクトを残す。
アメリカのスタッフが、
「日本のスパイダーマンはいい作品だ。レオパルドンはアレとして……」
とコメントしたのは有名な話だが、私もはじめて見たときはマーベルもスパイダーマンのことも、なにも知らなかったのにもかかわらず、
「こんなんホンマのスパイダーマンやない!」
画面に向かって、つっこんでしまったものだ。
海の向こうではどう、といった小賢しい知識ではなく、人としての「本能」が言わせた言葉であろう。
ようは知らんけど、絶対、ホンマはこんなんとちゃう、と。
この無垢で無知な子供にすら「なんか違う」感バリバリであったレオパルドン。
なにがどうと説明するのは難しいが、「昭和の業」といったものを感じさせるメカである。
「みんなが映画館で見るスパイダーマンはカリフォルニアロール。アボカドの寿司もいいけど、やっぱ日本人は本物の握りを食わなアカンのやな」。
しみじみと、そう語るイマフネ君。
全体的に論理が二重三重にねじれている気もするけど、言いたいことはわからなくもない。なんか、
「香港では『出前一丁』が本物のラーメンあつかい」
みたいなノリであるなあ。
そんな東映版スパイダーマン。子供のころ観て以来再放送とか全然やってくれないんで、あらためて今回YouTubeで検索したら、やはりいました「本物志向」のファンの人々が。
で、見直したら予想以上に暑苦しい内容で笑ってしまった。
ベッキーさんや乙武さんも、このポーズとセリフを拝借して記者会見すれば、けっこう世間もゆるしてくれたような気もするがどうか。
(『総天然色ウルトラQ』編に続く→こちら)
おまけ 東映版スパイダーマンの活躍は→こちら