「あなたの好きな名探偵投票キャンペーン」
というのは、ミステリー専門チャンネル「AXNミステリー」が開局20周年を祝してやった企画だが、そんなものを見せられたら
「オレにも語らせろ」
となるのがファンというもの。
そこで前回(→こちら)「名探偵」巫弓彦の話をしたが、続くはこの人。
ダゴベルト・トロストラー。
といっても知っている人は少ないかもしれないが、オーストリア=ハンガリー帝国時代に活躍した作家バルドゥイン・グロラーが世に出した名探偵。
と聞くと、
「世紀末ヨーロッパ? ハプスブルク朝? 帝政ウィーン? もう大好物!」
なんてヨダレを垂らす人もおられるかもしれないが、その通り。
この貴族探偵ダゴベルトは、20世紀初頭の、まだ古きヨーロッパの残り香がかろうじて残っていた、あの時代に活躍する名探偵なのだ。
歴史もの、中でもヨーロッパ好きにとって、
「この時代が舞台なら読む!」
という人気時代はいくつかあって、
「ローマ帝国」
「革命フランス」
「ヴィクトリア朝ロンドン」
「スペイン内戦」
あたりが鉄板で、私なら
「第一次大戦から、ナチス崩壊へ至るころのドイツ」
が入るが(皆川博子『総統の子ら』、須賀しのぶ『神の棘』とか)、こういったラインアップの中に確実に、
「ハプスブルク家が治めるオーストリア=ハンガリー帝国」
というのが入ってくるのだ。
フランツ・カフカをはじめ、アルトゥル・シュニッツラーや、私の大好きなシュテファン・ツヴァイクにヨーゼフ・ロート
そんな面々が活躍したころといえば、その空気感がわかっていただけるのではないか。
最近では、ウェス・アンダーソンの映画『グランド・ブダペスト・ホテル』とか、モロにそのノリである。
ダゴベルト・トロストラーの魅力は、もうそのものズバリ「貴族的」であること。
第一次大戦前で、文化的には頂点を極めた帝都ウィーンで、音楽と犯罪学に淫する貴族探偵と聞くと、もうその設定だけでウットリ。
そんな彼が、ワトソン役のグルムバッハと豪華ディナーに舌鼓を打ち、オシャレなタキシード姿で葉巻とワインを楽しみながら事件を解決したりした日には、優雅すぎて笑ってしまうではないか。
邦訳されている『探偵ダゴベルトの功績と冒険』も、読みやすくも優雅な文体と、品のあるユーモアに彩られ、「ホームズのライバル」と称されながらも、なぜにて日本ではマイナーなのか不思議なほどだ。
そんな格調高いダゴベルトの物語は、ミステリファンのみならず、世界史好きと、あとたぶん将棋の佐藤天彦名人にもおススメです(←今日はこれが言いたかった)。