中田功のさばきと来たら、まったく官能的なのである。
振り飛車のさばきといえば、まず最初に出てくるのは「さばきのアーティスト」こと久保利明九段だが、将棋界にはまだまだ腕に覚えのある達人というのはいるもの。
中でも玄人の職人といえば「コーヤン」こと中田功八段にとどめを刺す。
中田八段の得意とする「コーヤン流三間飛車」は、その独自性ありすぎなため、だれもマネできないと言われているが、そのさばきのエッセンスは見ているだけで楽しい。
前回はNKH杯戦で見せた、見事な指しまわしを紹介したが、今回もマネしたくなる振り飛車を。
2009年のC級1組順位戦。中田功七段と勝又清和六段の一戦。
中田の三間飛車に、勝又は急戦で挑む。
5筋と4筋から仕掛けて、先手の勝又が▲24歩と突いたところ。
定番の突き捨てで、△同歩と取るのがふつうだが、振り飛車党なら手抜いてさばく手順も考えたい。
なら△44角もあるかなというところだが、マイスター中田功はもっと軽快に行く。
△44飛といくのが、振り飛車の感覚。
子供のころ、中飛車で角が向かい合った形から△55歩、▲同歩、△同飛と行って、▲同角に△同角が飛車香両取りという手順に感動した記憶があるが、その原体験がある人は、すぐさま飛車を振るべきであろう。
▲44同角は△同角から暴れまくられそうだから、勝又は渋く▲56歩と打つ。
▲23歩成に△48飛成から△55角という、大さばきを警戒した手だが、これなら振り飛車がやれそうだ。
すかさず△57歩と「手裏剣」を飛ばして、▲59金に△58銀と露骨に打ちこんでいく。
▲同金、△同歩成、▲同金に△75歩。
玉頭に手をつけて、陣形の差も大きく振り飛車がさばけている形。
とにかく、先手の▲24歩を間に合わせてないところがねらい通りで、飛車が動けば角交換も確定だから、いかようにも、さばきまくれそうなのだ。
少し進んで、この局面。
先手は△33角のラインがうっとうしいので、▲25桂と使って、なんとかそれをどかそうとする。
角を逃げると飛車がタダなので、いよいよここで△48飛成から△55角の大刀さばきが発動するのかと思いきや、「マイスター」の腕はそのさらに上を行くのである。
△46飛と浮くのが、摩訶不思議な手。
だが、指されてみると「おお!」という。
▲同角とは取れないし、次に△56飛と土台の歩をはらわれると、▲55の角がブラになるうえに飛車が一気に玉頭をおびやかしてくる。
先手は▲33桂不成と、懸案だった角をようやく除去するが、かまわず△56飛がきびしい。
完全に後ろを取った形で、角取りと△76歩の玉頭攻めや、△58歩成もあって攻めは選り取り見取り。
▲66銀と投入して、なんとかねばろうとするも、急所の△76歩を利かして、▲86玉と追いこんでから△55飛とさわやかに飛車を捨ててしまう。
▲63銀成、△同銀、▲55銀に△88角できれいに寄り。
▲22飛に△72金と締まって、ここで勝又は投了。
最後は木村美濃を完成させて勝つという手順の妙がシブい。
攻防ともに、最低限の駒だけで仕上げている感じが、いかにも達人の技という感じがする。
コーヤン流というと穴熊退治のイメージが強いが、やはりさばきは急戦のときこそ威力を発揮する。
いやあ、見事なもんですわ。
(中田功の芸術的な三間飛車はこちら)
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