フランス語を勉強している。
1日に10分ほど語学アプリで遊んだり、YouTubeで初級講座を見る程度と能天気なものだが、こんなんでも1年続けるとなかなかのもの。
Alors,ce n'est pas des cornflakes.
(だとしたら、それはコーンフレークではありません)
Maintenant, vous allez vous entretuer un peu.
(今から、ちょっと殺し合いをしてもらいます)
Tournez l'Indien à droite là-bas.
(そこでインド人を右に回してください)
といった、われわれもよく使うような仏語フレーズを言ったり聴いたりできるようにはなったから、継続というのはバカにならないものだ。
といっても、そもそものところフランス語を学ぼうなんていう、殊勝な心はまったくなかった。
私がフランス語に手をつけたのは、それ自体ではなく「フランスなまり」をマスターするためだったのだ。
順を追って説明すると、私はこう見えて、ザックひとつで海外を旅行するのが好きな「バックパッカー」という人種である。
そうなるとよく訊かれるのが、
「言葉はどうしてるの? もしかして英語ペラペラだったりして」
もちろん、私のマカロンくらいの大きさの脳みそでそんな芸当などできるわけないが、一応大学受験のときの知識が残っていたり。
あと、講師の大杉正明先生目当てに浪人時代から2年間ラジオ英会話を聴いていたので、いわゆる「中2英語」くらいはキープできていたりもした。
また、意外と誤解されがちだが、世界には英語なんか通じないところも普通に多く、現地語のあいさつと、数字と「5W1H」的なものをおぼえていったほうが、全然実戦的だったりするのだ。
なもので、中2英語で困ることはなかったが、さすがにネイティブ相手だとちょっと無理があった。
これは「バックパッカーあるある」だが、「非英語圏の人が話す英語」は案外通じるが、ネイティブには相当英語ができる人でも大苦戦。
まあ、こちとら旅行で
「駅はどこですか?」
「このサンドイッチをひとつください」
くらいのやりとりでいいので、流暢な英会話は必要ないのだけど、そこで収まってしまうのもおもしろくない。
そこで「フランス語なまり」の出番である。
よく、われわれ日本人は「英語コンプレックス」があると言われているが、ここで逆転の発想。
仮に日本人に「英語コンプレックス」があるとしたら、英語人にだってなんらかの引け目があるのではないか。
英国など他は知らねど、アメリカ在住の知人に訊いてみたところ、アメリカ人はフランス語に苦手意識があるのだそうな。
ならば、そこで勝負である。
もちろん、フランス語自体をマスターするのは大変だが「なまり」だけなら、結構付け焼刃でもなんとかなるのではないか。
たとえば「hotel」を「オテル」(フランス語は「h」を発音しない)と読むとか。
「cat」も「cats」も「キャ(あるいはサ)」と、複数形も単数形も同じ発音にしたり(フランス人は語末の子音を発音しない)。
あとは鼻母音や巻き舌風の「r」や、「black flower」をわざと「flower blacke」と誤記してみたり(仏語の形容詞の多くは名詞の後ろにつき、性によって変化もする)。
とどめにはミスヲタなので、かの名探偵エルキュール・ポアロ(ハヤカワっ子なので「ポワロ」ではない)のように、
「mon ami」(わが友)
「Eh bien」(えーと)
「C'est fini」(お終いだ)
なんてワードを会話の中に放り込んでいけば(ポアロはベルギー人)、
「おお、この人は英語がつたないと思ってたけど、実はフランス語がしゃべれるんだ。スゲー」
と思ってもらえるという算段である。
これを思いついたときは「天才あらわる!」と悦に入ったもので、早速それらを学ぶべくデュオリンゴやドロップという語学アプリをインストール。
ここに発動された「ヘラクレス作戦」により、せっせと
「じゅ、すゅい、ちゅ、え、いる、え、える、え」
とかやっていたら、気がついたらドップリとハマってしまった。楽しいやん。
もともと、大学でドイツ文学を学ぶためにガッツリとドイツ語やってた「ガチ勢」だし、海外旅行は好きだし。
外国語エッセイや、そもそも日本語も含めた「言葉自体」が好きなんだろうけど、気がつけば
Je pense que si je travaille, je perds.
(私は働いたら負けだと思っています)
なんて会話できたりして、世界は広がる。
それにしても思うのは、今はいろんな情報や便利なものがあっていいなあということ。
YouTube観ればかなりマイナーな言語でも講座があるし、単語はググれば出てくるし、遊び感覚で勉強できるアプリも山ほど。
私だって、もしフランス語を参考書買ってきてせっせこやるという昔の方式なら、絶対続かなかったことは間違いない。
なにかを学ぶにおいての進化は、確実にあるなあと感じたものだった。今の若い子がうらやましいッス。
(ドイツ語でハッタリ編に続く)