読書日和

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「図書館危機」有川浩

2012-10-07 23:20:20 | 小説
今回ご紹介するのは「図書館危機」(著:有川浩)です。

-----内容-----
思いもよらぬ形で憧れの”王子様”の正体を知ってしまった郁(いく)は完全にぎこちない態度。
そんな中、ある人気俳優のインタビューが、図書隊そして世間を巻き込む大問題に発展。
加えて、地方の美術展で最優秀作品となった”自由”をテーマにした絵画が検閲・没収の危機に。
郁の所属する特殊部隊も警護作戦に参加することになったが!?
表現の自由をめぐる攻防がますますヒートアップ、ついでに恋も……!?
危機また危機のシリーズ第3弾!

-----感想-----
※図書館戦争のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
※図書館内乱のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。

この作品は前作「図書館内乱」からの続編となります。
今作では、「メディア良化委員会」対「図書館」の「表現の自由」をかけた対決がさらに激化
二つの大きな攻防が繰り広げられます。

まず一つ目が、香坂大地という人気俳優のインタビューを掲載した「週刊新世相」が作った特集本を巡る攻防。
自身の生い立ちについてのインタビューのとき香坂は恩人である祖父について「床屋のおじいちゃん」という言葉を使っていました。
しかし週刊新世相ではこれを特集本に掲載する時「理容師のおじいちゃん」として掲載してました。
これが香坂大地の逆鱗に触れ、特集本は出版延期に。
香坂大地が怒っていたのは、「床屋のおじいちゃん」という言葉を勝手に「理容師のおじいちゃん」という言葉に変えられていたこと。
これには「床屋」という言葉が違反語としてメディア良化法の検閲に引っかかるという事情がありました。
そのため週刊新世相としては「理容師」という言葉に変えていたというわけです。
しかし香坂大地としては60年以上「床屋」として頑張ってきたおじいちゃんを勝手に「理容師」として書かれたことが我慢ならず激怒。

「60年も自分のことを『床屋』って名乗ってきた人間に俺はこの本見せて何て説明するわけ?『床屋』は違反語だから別の言葉に置き換わってるけど気にしないでとでも言うのかよ」

「そもそもその違反語って決めたの誰だよ、うちのジジイに一言の断りもなく『床屋』は違反語ですなんて決めくさった奴をここに連れて来いよ!」

メディア良化法によって表現の自由が規制された世界では、「床屋」という言葉も違反語として検閲の対象になってしまっているのです。
メディア良化委員会が勝手に「差別的である」と決めつけて。。。
これには香坂大地は到底納得いかないし、週刊新世相としてもその思いを汲み、何とかしてあげたいと思うようになりました。
そして相談したのが、メディア良化委員会の検閲に唯一対抗出来る組織である図書隊。
図書隊から知恵を貰い、週刊新世相と香坂大地は何とか特集本の表記を「床屋」にして尚且つメディア良化委員会の検閲をかわすべく、戦っていくことになります。
この表現の自由を巡る攻防はとても面白かったです。
床屋さん達が頼んだわけでもないのに、なぜメディア良化委員会なる組織が「床屋」という言葉を勝手に「差別的である」と決めつけ、検閲しようとするのか。
それはまさしく言葉狩りであり、言論弾圧です。
しかも床屋さん達は別に「床屋」を差別的な言葉などとは思ってなく、あくまでメディア良化委員会が勝手に決め付けているという点がポイントですね。

印象的だったのが、図書隊の人が言っていたこの言葉。

言葉が規制されるということに問題意識を持つ国民が少ないから良化法は成立したままでいられる。

そうなんですよね、国民が無関心だからメディア良化法などという悪法が成立し、表現の自由が規制され、言論が弾圧される状況が続いているというわけです。
これは現実世界で言う「人権侵害救済法案」と通じるものがあります。
※「人権侵害救済法案」の記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

そして二つ目が、地方の美術展で最優秀作品となった”自由”をテーマにした絵画を巡る攻防。
その絵画のタイトルは、「自由」。
コンクリートを打ちっぱなしたような壁を背景に、メディア良化委員会の代執行機関である「良化特務機関」の制服があり、さらにそれが大きく切り裂かれ、その裂かれた穴から向こうに青空が覗いている絵画です。
明らかにメディア良化法による「表現の自由」の弾圧を強烈に風刺した絵画で、この作品が最優秀賞を取ったことで事態は非常に緊迫。
激怒したメディア良化委員会が良化特務機関を使ってこの絵画の検閲・没収をかけてくるのは明らかというわけです。
絵画があるのは茨城県立図書館なのですが、そちらの図書隊だけではとても対抗出来そうにないため、郁の所属する関東図書隊東京都司令部の図書特殊部隊に応援要請が来ました。
ここからメディア良化委員会と図書隊による「表現の自由」をかけた、図書館戦争シリーズ史上最大規模の攻防が始まります。

また印象的だったのが、図書特殊部隊のメンバーが茨城に到着してから遭遇した「無抵抗者の会」なる市民団体。
この団体の主張によると、

「我々は武力に拠らずして検閲と戦う無抵抗主義者の団体だ!我々は市民として関東図書隊の館内武器持ち込みに抗議します!」

などと言って、茨城県立図書館に応援に来た図書特殊部隊の「武装解除」を要求。
しかもなぜか同じく武装しているのが明らかな「良化特務機関」には何も言わず、

「最初から武器を持ち込んでいるだろうという疑いを掛ければ対話は生まれません!しかし、あなたがたや茨城の図書隊防衛部は武器を所持していることが明らかです!先に武装を放棄することで彼らにも伝わるものが…」

などと言っている始末。
まるで現実世界で言う憲法九条の狂信者みたいな人達でした
とにかく武器を放棄さえすれば相手は攻めてこない、対話で何とかなるという発想ですね。
玄田竜助というこの戦いで図書隊の総大将を務める人が「お話にもならん!寝言は目をつむって言うもんだ!」と言っていましたが、全くそのとおりだと思います。
武装放棄などしたらあっという間に良化特務機関によって最優秀賞を取った絵画が検閲・没収されてしまうでしょうに。。。

今作は本当に表現の自由を巡る攻防が激化していて、後半はメディア良化委員会対図書隊の全面対決になっていました。
激しい武力衝突になっていて、図書隊の仲間達も負傷したり重傷を負ったりしてしまいます。
そして最後は思いも寄らぬ人物の、勇退もあり。
郁の所属する関東図書隊東京都司令部で、一つの時代が静かに幕を閉じました。
風雲急を告げる中で迎える、次巻最終巻となる「図書館革命」。
いずれ必ず読みたいと思います


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