読書日和

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「十六夜荘ノート」古内一絵

2012-10-20 21:46:20 | 小説
今回ご紹介するのは「十六夜荘(いざよいそう)ノート」(著:古内一絵)です。

-----内容-----
この屋敷には、「なにか」ある。
ひとり静かにこの世を去った大伯母から、高級住宅街にある古い洋館を遺された雄哉。
思わぬ遺産に飛びつくが、なぜか屋敷は「十六夜荘」という共同住宅(シェアハウス)になっていた……。
社会からドロップアウトした変わり者たち―
40代無職のバックパッカー、タイ出身の謎の美女、ひきこもりミュージシャン(自称)、夢を諦めきれずにいるアラサー美大生―
が住む「十六夜荘」を大伯母はなぜ、雄哉に託したのか。
そして屋敷に隠された秘密とは?
ひとつ屋根の下、現代と戦中が交錯する、記憶をつなぐ物語。

-----感想-----
物語の主人公は二人。
一人はマーケティング会社のグループ長を勤める雄哉。
もう一人は雄哉の大伯母である玉青(たまお)。
雄哉のほうは現代を舞台に、玉青のほうは戦中時代を舞台に、それぞれ交互に物語が進んでいきます。

ある日雄哉のもとに大伯母である玉青の代理を名乗る謎の行政書士がやってきて、大伯母の死、そしてその遺産の一部である高級住宅街にある古い洋館、その相続人が雄哉だということを知らされます。
突然のことに驚く雄哉ですが、目黒の御幸が丘という高級住宅街にある洋館ということで、その資産価値ににわかに色めき立ち、どんな建物なのかを見に行くことに。
しかしそこは「十六夜荘」という共同住宅(シェアハウス)になっていて、妙な住人達が住み着いていました。
せっかくの遺産、まして高級住宅街ということもあって建物よりむしろ「土地」に目をつけていた雄哉は、この住人達をさっさと追い出そうと算段を巡らせます。
ただ行政書士の話を聞くうちに、どうやらこの建物は大伯母のほかにもう一人「蔡宇煌」という謎の人物が共同権利者になっていて、遺産相続のためにはその人物を探し出す必要があることを知ります。
思わぬ展開にイラつく雄哉でしたが、この人物の謎を解くために奔走するうちに、徐々に十六夜荘の謎、そして若き日の大伯母の姿が見えてくるのでした。

大伯母の玉青の物語は、戦中を舞台に繰り広げられます。
戦中とは大東亜戦争(太平洋戦争)、第二次世界大戦のことです。
玉青の物語は昭和13年から始まり、14年、17年、18年、19年、昭和20年、昭和20年夏、21年、22年と続いていきます。
華族として激動の時代を生きた玉青の姿がそこにはありました。
現在の、共同住宅(シェアハウス)になっている古びた十六夜荘とは違う、綺麗に整えられた立派な洋館。
玉青の家は職業軍人の家系で、この家の男たちは軍籍につくことを避けて通ることはできません。
家にはキサさんやスミさんという使用人がいて、継母の楓さん、その子の、玉青にとっては腹違いの妹となる雪江、そして兄の一鶴がいます。
一鶴は兵学校を卒業すると同時に男爵を継承し、海軍省の報道部に配属されています。
普段は忙しくてなかなか家には帰ってこれませんが、たまに休暇を取って帰ってきたときにはみんなで大盛り上がり
父亡き今、一家の当主たる兄の存在感は一際輝いていました

そして兄の報道部の仕事の一環として屋敷に集まる、個性豊かな面々。
みんな風変わりですが美術の才覚があって、屋敷に来ては色々な絵を描いていました。
この人達のマナーの悪さに厳格なキサさんは怒ることもしばしばでしたが、玉青や一鶴はそんな光景も微笑ましく見ていました。
ピアノも弾ける一鶴が曲を弾き始めると、絵を描くみんなやそれを眺める玉青たちの光景が曲に乗って思い浮かんでくるようでした

しかし、月日とともに次第に悪化していく戦況。
昭和17年の場面では真珠湾、マレー沖海戦、シンガポール陥落と、日本軍の快進撃が続いているとあったものが、続く昭和18年では重苦しい雰囲気に変わっていました。
やがてついに兄の一鶴も出征することになり、さらに屋敷に来て絵を描いていた人達にも赤紙が来て戦地に赴くことに。
昭和20年にはとうとう玉青の屋敷のすぐそばでもアメリカ軍による爆撃があり、玉青たちは憔悴しきりに。
それでも、きっと生きているであろう戦地で戦う兄の一鶴を想いながら、玉青たちは地獄のような爆撃を耐え忍ぶのでした。

そして昭和20年夏、敗戦。
そこから続く21年、22年が、玉青の本当の戦いの始まりでしたね。
雄哉も色々調べていくうちに、親戚の間ではなぜかあまり評判の良くなかった玉青の、本当の姿、生き様に気付かされていきます。
なぜ現在の屋敷が「十六夜荘」という名前になっているのか、なぜ玉青は雄哉に「十六夜荘」を託したのか。
全ての謎が解けた時、雄哉ははっきりと大伯母である玉青の偉大さを知るのでした。

それと、この作品では旧日本軍がだいぶ愚かな集団として描かれているので、私からは過去に書いた以下の記事を付けておきます。
「ASEANの旗」
これでバランスが取れるのではないかなと思います。
たしかに旧日本軍には愚かな部分もあったようですが、しかし「ASEANの旗」で書いたように、欧米列強によって植民地にされていたアジアの国々は、日本の戦いぶりに大いに感謝してくれています。
作中のような悲惨さとともに、植民地にされていたアジアの国々の解放という役目も果たしたということを、ぜひ覚えておいてほしいです。


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