読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「しょうがの味は熱い」綿矢りさ

2013-01-04 23:59:30 | 小説
というわけで、2013年最初の小説レビューです
今回ご紹介するのは「しょうがの味は熱い」(著:綿矢りさ)です。

-----内容-----
ねえ、結婚しようよーーーーっ!って言いたい。
愛し合って一緒に住んでるのに、婚姻届を見ただけで顔がひきつるってどういうこと!?
時間を重ねるほど、一緒にいるほどに「結婚」の二文字が遠ざかる。
好きなのにどうしてもすれ違う二人の胸の内を、いやんなるほどリアルに描く連作2編。

-----感想-----
絃(ゆずる)と奈世(なよ)の、同棲しながらも心がすれ違ってばかりの二人の、葛藤を描いた物語。
絃は色々なことに潔癖でこだわりがあって、何だかとても冷めた感じの人。
最初名前からフィギュアスケートの羽生結弦選手をイメージしたのですが、羽生君とは似ても似つかない冷めた感じの人でした(笑)
一方の奈世は絃と違って細かいことにはこだわらないけれど、結婚願望がとても強い人。
ただし絃がそういう話に乗り気でないため不安に駆られることもしばしばです。

物語は「しょうがの味は熱い」と「自然に、とてもスムーズに」の二部で構成されています。
「しょうがの味は熱い」は2008年の8月に発表されたもので、その続編の「自然に、とてもスムーズに」は2011年の1月に発表されたもの。
二つの作品の間には、2年5ヵ月の時間があります。
実はこの2年5ヵ月には大きな意味があって、2008年の8月はまだ綿矢さんがスランプで試行錯誤している最中だったのか、文章にもちょっと迷いが感じられました。
それが「自然に、とてもスムーズに」のほうでは大幅に良化されていて、スランプを乗り越えて吹っ切れた感じがしました

「しょうがの味は熱い」では、絃の部屋で同棲する奈世と絃それぞれの胸の内が描かれていました。
奈世は絃への想いが強く、常に絃の存在を求めています。
そして仕事で疲れている絃の邪魔にならないようにと、一緒にいる時は最大限気を使っています。
でも絃のほうは、そんな奈世の気遣いに辟易しています
奈世の気遣いのどれもこれもが、絃には重荷になっているようで、口には出さないものの心の中でどう思っているかがリアルに描かれていました。
ただし絃が潔癖過ぎたり冷め過ぎているところにもかなりの原因があり、ほんと同棲しているのにここまですれ違うのかというくらい二人の気持ちはすれ違ってばかりでした。

結婚してから色々なことを解決していきたい奈世と、結婚するまでに色々なことを解決しておきたい絃。
この考え方の違いが二人の大きな溝になっていました。

「自然に、とてもスムーズに」のほうでは、冒頭で二人の同棲生活は3年とありました。
そして同時に、倦怠期っぽくなっているとも。
そんな状況を打破すべく、なんと奈世は婚姻届を持ってきて結婚を迫ります
しかし絃のほうはとことん冷めた性格のため全く乗り気ではなく、この婚姻届が元で大喧嘩になり奈世が荷物をまとめて絃の部屋から出ていく事態になります
序盤からこんな展開で一体どうなるのかとかなりハラハラする波乱の展開でした。
その後奈世は実家に帰り父、母に絃との顛末を話し、しばらく実家で暮らすことに。
絃には全く連絡もしなくなりました。

一方の絃は奈世がいなくなって初めて、その存在の大事さに気付くことになりました。
奈世のいない部屋で、自分が好んでいたはずの静寂を手にしたはずなのに、一向に気分が晴れない絃。
奈世の存在は思いのほか大きかったようです。
その後冷めた男であるはずの絃が何やら熱くなって奈世ともう一度やり直せないかと奔走するのは興味深かったです。
3年同棲してきて、その後一度離れたことで、心境の変化があったようですね。

価値観も決定的に違っていてすれ違ってばかりの二人が最後はどうなるのか、とても興味深く読んでいきました。
「自然に、とてもスムーズに」のほうは物語も激動な感じなので緊迫感もあります。
それでいて綿矢さんの作品なだけに感情の機敏も丁寧に描かれていて、二人ともあと少し自然体の状態で相手側に歩み寄れればもっと上手く行くかも知れないのに、とやきもきさせられました。
なかなか上手く行かない男女のすれ違いの物語、綿矢りささんの新たな一面を見た気がします。


※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。