木曜日に前の市医師会長(現在は県医師会理事)の叙勲を祝う会が開かれた。主には市医師会のメンバーである開業医の先生方、それに市内の病院長などが集まった。当院からも院長を含む5名が出席した。学校医としての活動や医師会の活躍に対する表彰だった。
円卓に座っていたが、私の隣に内科医院の先生が座った。その日の昼ごろに、一過性に血圧が低下して肝機能障害・腎機能障害を認める患者さんを当院に紹介していたので、「あの患者さんはどうなりました」と訊かれた。救急外来で当番の神経内科医が対応した後に、内科へ回されて入院していた。「皮下出血の方ですね」と答えると、「いや違う患者さん」という。受診した経緯を説明すると、その患者さんだと納得してくれた。両上肢の皮下出血は見たのだと思うが、殿部の皮下出血は見ていないという。
その患者さんは64歳男性で、40年前に胃切除術後(全摘)を受けて、そこの内科医院で定期的にビタミンB12の筋注を受けていた(胃切除術後ビタミンB12欠乏性貧血)。前日の朝に受診して、採血の後(絶食で受診)、診察の順番が来るまで時間があるので、近くのコンビニにおにぎりを買いに行った。その道路からコンビニには3~4段の階段を上がるが、そこで後ろ向きに倒れてしまった。殿部と両上肢を打撲して、結構広範な皮下出血ができてしまった。頭部打撲はなかった、すぐに立ちあがって、おにぎりを買って医院に戻った。血圧測定すると80mmHgと低下していた。意識障害などの症状があれば、そのまま当院に紹介(搬送)されたと思われるが、患者さんは普通に喋っていて苦痛はなかった。脱水症(普通に飲み食いしているが)疑いということで、入院して点滴をした。そこは今時珍しい有床診療所で数人入院している。血液検査の結果が翌日出て、肝機能障害と腎機能障害があるので、その時点で当院紹介となった。
当院受診時、血圧は110~120mmHgだった。確かに肝機能障害があり、AST・ALTが100ちょっとでAST優位、γ-GTPが300だった。飲酒量をきいてみると、ビールで4本くらい(自称なので実際はもっと多い)という。仕事が定年になってからは昼から飲んでいるそうだ。HBS抗原陽性でキャリアーのようだが、B型慢性肝炎よりはアルコール性肝障害が主因のようだ。腹部エコーで見ると、肝腫大があり脂肪肝だった(肝硬変とはいえないし、肝細胞癌もない)。腎機能障害はBUNが40、血清クレアチニンが2.1で解離している。両上肢と殿部の皮下出血を合計すると、結構広範だった。前日の血圧低下とBUNの上昇は皮下出血のためと判断された。血清クレアチニンの推移を見る必要があるが、アルコール性肝障害はこれまでもあったもので、改善は節酒しだいだ。別のクリニックで高血圧症の治療をしていて、ウルソも処方されていた。今回HbA1cが7.0%と糖尿病もあった。1週間の入院予定で経過をみて、必要な検査をして、かかりつけ医に戻すことにした。
その内科医院の先生の息子さんは、東京の大学病院で肝臓を専門にしているという。跡継ぎですかと聞くと、自分が元気なうちは戻ってこなくていいという。いっしょに診療すると何かと揉めるので、自分が病気などで弱ってからじゃないと無理だろうという話だった。また反対側の隣に座っていた内科クリニックの先生の息子さんは、東京で血液内科をしている。戻ってくることは期待しておらず、自分のクリニックは一代限りのつもりでやっていますと言っていた。向かいに座っていた先生の息子さんは当院消化器科に勤務している。あまり二人で話をすることはないそうで、女房(つまり母親)とだけ連絡を取り合っていますと苦笑いしていた。昨年の忘年会で、その消化器科医が「いずれは跡を継ぐので、雇う看護師さんのことなども考えています」と言っていた。伝えておいた方がいいかもしれないと思って、その話をした。当院としては、なるべく長く勤務してほしいので、お父さん先生にできるだけ元気でいてほしいこともお伝えした。別の円卓に座っていた先生の二男は、大学病院消化器内科で肝臓を専門にしている。来月に当院に応援診療に来る予定だ。祝賀会の帰りに、向こうから「今度息子が診療におじゃますると言ってました」と話しかけられた。その枠は、内科新患と一部肝臓外来も兼ねている。「期待してますと」言うと、「いやあ、まだまだ役に立たたなくてと」嬉しそうに笑っていた。その先生の長男は、他県で診療していて、こちらには戻ってこないらしい。二男の先生に期待したい。